結婚しないで - 2004年03月08日(月) 昨日。 バースデー・パーティは楽しかった。 ジャックが大きなバースデー・ケーキを買ってきてくれた。今年はわたしの名まえだけでマジェッドの名まえはなくて、ひとりでキャンドルを吹き消したけど。マジェッドは「行けたら行くよ。ガールフレンド連れてっていい?」って言ってて来なかった。ふたりでお祝いしたんだろうな。 遅れて来たデイビッドは窓からわたしの名まえを大声で呼んだ。迎えに出たわたしを「ハッピー・バースデー!」って抱きしめて、ほっぺたに大きなスマック入りのキスをくれた。 プレゼントは猫の腕時計だった。ベルトのところに猫がふたり。わたしにパーフェクトな贈り物。椅子に座ってるデイビッドに片足で抱きついたらそのまま元に戻れなくなって、「ありがとう」って長いこと抱きついてた。「気に入った?」。わたしのからだを起こしながらデイビッドは聞く。もちろん、もちろん、もちろん。 わたしの同僚友だちたちと、デイビッドはおしゃべりを絶やさない。デイビッドらしかった。とりわけジャックと気が合ってたのが可笑しかった。 二ネットの旦那さんが二ネットを迎えに来て、それと同時にみんな帰る。デイビッドだけいてくれた。「きみはいい同僚たちがいて幸せだよ」ってデイビッドは言った。そして二ネットの小さなニコールをとても気に入ってた。あんな可愛い女の子が欲しいって言った。テレビを観てチビたちと遊んでたくさんくっついてたくさんおしゃべりしてカウチの上で抱き合った。不自由な足でちゃんとなんか出来なくて可笑しくて笑って足をかばいながら抱き合って、わたしは泣いた。 「ちゃんとイケなかった?」 「ちゃんとイッた」 「なんで泣いてる? 悪いこと考えてる?」 「ううん」 「うそだ。悪いこと考えてる」 「ううん」 「Don't worry」 「Don't worry って?」 「・・・Don't cry 」。 おばあちゃんのお姉さんも、おじいちゃんの両親も殺された。おやじの兄弟も母親の親戚も殺された。ジューイッシュという理由で。僕はまだ何もわからない小さな子どものときからそれを聞かされて育った。そういう時代は終わらないんだよ。いつの時代も世界のどこかでジューイッシュはジューイッシュという理由で殺される。きみは知ってた? 9.11のテロもそれが理由のひとつだってこと。ジュイーッシュはネイションなんだ。きみが日本人であるのと同じに。そのネイションを絶やすわけにいかない。ジューイッシュを守らなくちゃいけない。だからジューイッシュの娘と結婚をしてジューイッシュの子どもを育てなきゃならない。両親と祖父母に僕は子どものときにそう洗脳された。洗脳されたものは簡単に消すことが出来ない。たとえもしもそれが間違ってたとしても、洗脳されたものを変えることは簡単には出来ないんだよ。 「ジューイッシュの人じゃなきゃだめなの?」。いつか結婚したらニコールみたいな女の子が欲しいってデイビッドが言ってわたしがそう聞いたときの、それがデイビッドの答えだった。 悲しい歴史。悲しい争い。悲しい憎み合い。「歴史なんかなければいいのに」「僕は宗教なんかなければいいと思うよ」。いつかそう話したことがある。宗教なんかなければいい。ほんとにそうだ。宗教なんか。なぜ信仰が宗教である必要があるんだろう。信仰だけでいい。純粋な信仰さえあればいいのに。宗教なんか。宗教なんか。 「結婚しないで」 「結婚したらきみを秘密のガールフレンドにする」。 デイビッドはわたしの額にキスをしながらそんなこと言う。 「それはだめだよ。そんなことするべきじゃない。弟に早く結婚させて子どもを100人作ってもらえばいいじゃない」。 デイビッドは少しだけ微笑んで「OK」って言った。 「結婚しないで」。 もう一度言ったら、また少しだけ微笑んで「OK」って言った。 悲しい嘘。悲しいわたしの行き先。 結婚しないで。そしたらずっと一緒にいられる。ずっと一緒にいたい。結婚しないで。 おんなじだ。天使のあの人にもいつもいつもそう思ってた。いつもそう言って困らせた。 なんでだろ。なんでわたしはまたおなじことで苦しまなきゃいけないんだろ。 -
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