みんな壊れた天使 - 2004年01月03日(土) 12月18日木曜日。 ショーを終えて約束のカフェにやって来たデイビッドがカフェのガラス越しにわたしを手招きした。ショーは終わったけどこれから最後の挨拶に出なきゃいけないって言うから、ふたりで会場に急ぐ。楽屋は舞台衣装を着た人たちがたくさんいて、デイビッドを待ってるわたしがなぜか緊張してた。挨拶を終えて楽屋に戻って来たデイビッドは、出演者の人たちからとても素敵な賞賛の言葉を貰ってた。それはほんとに胸の熱くなる言葉で、少しはにかんだ口もとと少し紅潮した頬とキラキラ輝く目で食い入るように聞いてるデイビッドを見ながら、わたしは誇らしかった。 カフェに戻って食事をしながら、デイビッドはもらった言葉をわたしに確かめるように繰り返す。あんなに自信のある人のはずなのに、まるで壊れた天使のように、予想もしなかった賞賛の言葉を噛み締めてる。デイビッドにとって特別になった日。そして、壊れた天使を見つけたわたしの特別な日。 12月19日金曜日。 病院のクリスマス・パーティ。ジェニーを誘って、まるでジェニーのための同窓会。「クークー」「ナット」ってさんざんエドにからかわれながら、また踊りまくる。「アンタその格好で今日仕事したの?」って、一旦うちに帰って着替えて来たラヒラに言われた。白衣のボタン上から下まできちっと留めて、ちゃんと隠してたから。今年もまたドアプライズ当たっちゃった。男物のウォレット。ちょっと大きすぎてデイビッドも使いそうにない。帰るときにジェニーがクリスマス・プレゼントくれた。大きなテディベア。嬉しかった。 12月20日土曜日。 教会仲間のクリスマス・パーティをパスして、スタジオのクリスマス・ダンスパーティに行く。オスカーさんと待ち合わせてパーティの前にメキシカンの食事。オスカーさんはビーフステーキのファヒータを注文する。この前のタイフードもビーフ食べてた。ビーフが好きなんて健康志向に欠けてるんじゃないの? ってちょっとウンザリしてしまう。って言いながらわたしもビーフステーキのファヒータ食べた。おいしかった。パーティは楽しかった。殆どオスカーさんと踊ってた。 12月21日日曜日。 約束通り、オスカーさんとリバーサイド教会のキャンドルライティングとキャロリングのフェスティバルに出掛ける。プロテスタントなのに大きな美しい教会だった。吹き抜けの高い高い天井近くの壁に端から端まで彫り抜いてあるたくさんのクロスを見ながら、失くした銀の指輪を思い出してた。おんなじような形のクロスをいくつもくり抜いた3連の指輪。教会はわたしにとって厳かな場所でも崇高な場所でもなくなった。あんなに立派な教会の中でさえほっとする居心地良さを感じるのが不思議だった。 たくさん歌を聞いてたくさん歌を唱った。「O Holy Night」と「Hark! The Herald Angels Sing」がとても好き。気持ちよかった。 12月22日月曜日。 明日の病院の部内のランチ・クリスマス・パーティに作ってくお料理の材料の買い出し。プラス、グラブ・ギフトのお買い物。わたしの相手はポーリンで、いつもオフィスでスタイロフォームのカップでお茶を飲んでるポーリンにはマグがいいっていうロジャーの案を採用して、白い砂模様の奇麗なマグを購入。規定の予算よりかなり安かったけどカードをつけるからいいかってことにする。みんなカードはつけるんだけど。 お料理はベジタリアンのパンフライ・ヌードルにする。2回に分けてたっぷり作った。 デイビッドから電話。クリスマスにロードアイランドに置いてあるスキーを取りに行くっていう。クリスマスは一緒に過ごすことになってた。「行く行く行く!」「翌日休暇取れる?」「取れない。でもコールインする」。クリスマス・イヴの夜から出発することになる。イヴは自分の教会のミサに行ったあと、11時からオスカーさんとオールソウルの教会にミッドナイト・ミサに行くことになってた。でもミッドナイト・ミサはパス。 12月23日火曜日。 ポーリンはマグをとても喜んでくれた。わたしはマリーから黒のシルクのスカーフをもらう。仕事が終わってからロジャーにつき合ってもらって、ローラーブレイドとアイススケートを買いに行った。セールしてたのとジュニアのサイズがぴったり合ったのとで、両方で税込みで90ドルちょっとで買えた。ラッキー。自分へのクリスマス・プレゼント。 帰ったらあの人から留守電が入ってた。「メリークリスマス」。ちょっと淋しそうな声だった。 オスカーさんに明日のミッドナイト・ミサに行けなくなったことを書いてメールする。電話で返事が来た。ものすごくがっかりしてた。クリスマス・プレゼントも用意して翌日のクリスマス・デーにはアイススケートにサプライズで誘おうと思ってたのにって。「『友だち』と行くの?」「そう」。デイビッドのこと。ごめんなさいって何度も謝った。デイビッドと旅行に行くことじゃなくて、ミッドナイト・ミサに行けなくなったこと。わたしも楽しみにしてたけど、やっぱりわたしはデイビッドを選ぶ。 12月24日水曜日。 朝、別れた夫から電話。声が明るかった。最後に話したのいつだったろ。結婚記念日の日? あれからメールを送ったけど返事がなかった。メールで聞いてたコンピューターのことを答えてくれた。ソフトを送るから住所をもう一度教えてほしいって言ってた。「今朝ね、いいことがあったの。別れただんなからメリークリスマスの電話があったんだ」。お昼休みにみんなに話したら、「別れただんなさんにまだそういう感情があるの?」ってサマンサに言われた。「そうじゃなくて」。いい。わかんなくていい。わたしは嬉しかったんだ。 仕事が終わってから自分の教会のクリスマス・ミサに行く。あったかいミサだった。ジーザスが生まれた日。実際にはほんとうに生まれた日ではないらしい。デイビッドに言われて初めて知った。それは太陽の光が地球に当たる時間が一番短い日が終わって、光が延びる最初の日。神さまの光が暗闇を照らす時間が長くなる始まりの日。それをジーザスの誕生の日とされた。このあいだオスカーさんが教えてくれた。キャンドルの灯を移し合って、小さなひとつの光がひとりひとの手の中で灯されて教会中に広がった。ゆらゆら揺れる灯たちの中で唱った「O Holy Night」。「クリスマスをどうして避けられる? ジーザスを信じてなくても、それがほんとはジーザスの生まれた日でなくても。世界中が西暦を使ってるだろ? 信仰に関係なくクリスマスは西暦の始まりなんだから」。クリスマスをお祝いしないはずのデイビッドがそう言ってくれたのが嬉しかった。それでもクリスマスをいままでみたいに受け止めなかったのは、ほんとうのクリスマスの意味を知ったからだと思う。 黒いドレスのままでデイビッドのアパートに急ぐ。 -
|
|