In America - 2003年12月15日(月) 金曜日の夜。 近くの音楽学校でやってた学生のパーカッション・コンサートに連れてってくれた。 コンサートはとっくに始まってて、インターバルになるまで上の階の教室に忍び込んでグランドピアノを弾かせてもらう。当たり前だけど、キーボードと違ってグランドピアノの鍵盤は重かった。重くて指が全然上手く動かなくて、くやしかった。コートのポケットにデイビッドが折り畳んで持ってってくれたスカボロフェアの楽譜も少しも上手く弾けなかった。オスカーさんちで練習した子犬のワルツもボロボロだった。 デイビッドは隣の教室でピアノを叩きながら歌の練習をしてて、聞こえてきたデイビッドのピアノのほうがずっと上手だと思った。 「今日はコンサートがあるから教室で練習するのはご遠慮ください」って、女の人が言いに来た。 コンサートの会場に戻ったら、インターバルがちょうど終わって次のカルテットの演奏が始まってた。どきどきしながら聴いた。ひとりひとりの手の動きを食い入るように見た。すごかった。音楽ってすごい。絶対すごい。プロとかアマチュアとか関係ない。胸が震えた。 土曜日もまる一日一緒に過ごした。 映画を観に行った。「In America」。こんないい映画は久しぶりだった。「Say good-bye to Frankie, Daddy」。死んだ小さな小さな弟への最後の祈りを女の子がお父さんに告げる。分かる。分かる。分かり過ぎる。涙が止まらなかった。あの娘が天国に行くのを見届けたあの日、わたしはさよならは言わなかったけど、あの娘がそばにいなくなったことを認めてあの娘が天国で幸せに生きることを受け止めて、そしてわたしは強くなれた。死んだ小さな命は、天国に行ったものだけに授けられる大きな大きな力で、ここで生きてるわたしたちを守ってくれるから。「生きてることの苦しみなんかなんでもないことなんだよ」って微笑みながら。わたしの隣で、デイビッドも涙を両手でぬぐってた。 コロンビア・スクエアでフェアをやってた。スイス・チャードとズッキーニを買って、晩ごはんに作る予定のスープの材料に加える。デイビッドは15種類のりんごをひとつずつ全部買ってた。ブラックベリーのジャムも買った。ゴートチーズも買った。 タワーレコードに行って、ノースフェイスに行って、皮のコート屋さんでクリスマスプレゼントにコートを買うふりをしてデイビッドがたくさんわたしに試着させた。ホットドッグ・スタンドでホットドッグを買って食べて、チョコレート屋さんに行って、スーパーマーケットに行って残りのスープの材料を買い込んで、ずっと歩きながらデイビッドのうちまで帰った。 バーリーと野菜のスープを作って食べ終えたら、もう12時近くだった。 土曜日の晩も一緒に眠って、起きたら雪が積もってた。 デイビッドが焼いてバターとアプリコットジャムを挟んだベーグルをナプキンに包んでくれた。 「楽しかったね」って、ほっぺと額とくちびるにバイのキスをくれて、あったかいベーグルをほおばりながら、大雪の降る中ひとりで教会に行った。 音楽を愛するデイビッドが好き。 あの映画で泣いたデイビッドが好き。 どのお店よりもコロンビア・スクエアのフェアが一番楽しかったって言ったデイビッドが好き。 「きみは楽しかった?」って抱きしめて聞いてくれるデイビッドが好き。 わたしが弾くピアノの伴奏でデイビッドがバイオリンを弾く。金曜日の夜には映画に行って一緒に笑って泣いて、土曜日には一緒にことことスープを作って、雪が降れば一緒にスキーに行って、毎日一緒に眠って毎日ナターシャがふたりと一緒にいる。 わたしの最後の「In America」。 叶わないと思ってしまったら絶対叶わなくなる。 -
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