少しだけ天使かもしれない - 2003年11月21日(金) 顔を洗って歯磨きしてデイビッドの T シャツに着替えてるあいだに、デイビッドがミントティーのカップをふたつナイトテーブルに運んでくれる。それからデイビッドが寝る用意をしてるあいだに、わたしは先にシーツに潜る。まだ10時半。映画を観に行く予定をやめて、今日はうんと早くベッドに入ってお茶を飲みながら本を読むことにした。言い出したのはデイビッド。わたしはその森のくまさん一家のお話みたいな案が気に入って、「まだ寝たくない」っていつもみたいにグズグズ言わずにナターシャにおやすみを言ってからさっさとひとりでベッドルームへの階段を登った。 わたしに貸してくれた本は、サイエンティストが書いたジェネシスの本。「旧約聖書を全部読んだ?」。そう聞いてからどんな内容か少しだけ話してくれて、デイビッドは「イスラエルの危機」って本を手に取った。「きみにぴったりの本だからしっかり読みな」って言ったくせに、自分の本を声に出して読みながらわたしに聞かせる。国と国の争い。人と人の争い。信仰と信仰の争い。聞きながら何度も質問してるうちにだんだん悲しくなってくる。 「なんで歴史を知ることが必要なの? 歴史なんかひきずるから悲しいことがたくさん起こるのに」「歴史を知らなければ人は同じ過ちを繰り返すんだよ」「だけど自分が生きてない過去を背負ってるせいで憎み合う人たちがたくさんいる」「確かに歴史は歪められることが多いけどね」。歴史なんか、過去なんか、誰もみんな忘れてしまえればいいのに。そう思う。 風邪はすっかりよくなったはずなのに、デイビッドは時々胸をさする。夜になると胃の調子がよくないらしい。わたしはデイビッドが本を読むのを聞きながら、代わりに胸をさすってあげる。 「止まったよ。胃のオカシイの。どんなトリック? どうやって止めたの?」 「あたしは天使だからよ」 「きみは天使だよ。時々悪い子だけどね」 「それは時々人間のふりしてるからよ」 「なるほどね。僕も天使だけどね。『ミ・アンゲラ』。子供の頃、おばあちゃんは僕をいつも呼んでた」 「なに? 『マイ・エンジェル』?」 「そう。『デヴィドゥ・ミ・アンゲラ』って」 「デヴィドゥってなに?」 「デイビッド。『デイビッド、私の天使』。イーディッシュは美しい言葉だよ」。 『デイビッド、私の天使』 なんて優しい響き。 それからデイビッドは子供の頃聞いたイーディッシュの言葉をいくつか教えてくれた。 「そうかもね。あなたの髪、天使の髪だもん」 「天使の髪?」 「そう。知らないの? 細くて柔らかくてクルクルしてる天使の髪」 ほんとに、デイビッドも天使かもしれない。初めて会ったとき、天使のあの人ときっと話が合うと思ったのはそのせいかもしれない。何でも全部楽しくしてくれて、悪いことをいいことに変えてくれて、一緒に過ごしたあの5日間のあの人とそんなとこも一緒だ。魚座生まれのくせにまるでロマンティストじゃないとこも一緒だ。デイビッドも天使かもしれない。あの人みたいにまるっきりじゃないけど、おばあちゃんがそう呼んでた分くらい。 わたしは1ページすら自分の本を読めないまま、本を閉じたデイビッドの腕に抱かれて一緒に眠りに落ちる。 今日はサルサのパフォーマンスの特別レッスンがあった。それからクラスメートのジーンに誘われて、ビレッジのダンス・スタジオのパーティに行く。ジーンはボーイフレンドを連れて来た。わたしは決まったパートナーがいなくて、いろんな人が誘ってくれたのはいいけど、なんだか冴えないオジサンみたいのばっかだった。タンゴを踊ってくれた人はキモチワルかった。ジーンとラリーはとても素敵に踊ってて羨ましかった。でもデイビッドがダンスをしないことは全然不満じゃない。サルサもタンゴもデイビッドには似合いそうにない。きっとあの人にも似合わない。 帰って来てからメールした。 昨日の夜がとても楽しかったこと。あんなふうにベッドで本を読みながらおしゃべりするのがとても素敵だったこと。返事は来ないけど、こんな時間に起きてるはずがない。 おやすみ、エンジェル・ヘアのデイビッド。 言わなかったけど、クリクリ睫毛つきのそのグリーンの目も、時々はっとするほど天使なんだよ。 -
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