TENSEI塵語

2005年02月17日(木) 「きみに読む物語」

きょうは推薦入試で、昼前には入試が終わってしまった。
だから、昼食時から2時ごろまでに、残りの半分を読んでしまった。

ロードショー中の映画の原作本だが、何となく買って読み始めた。
楽天ブックスで、鑑賞券の懸賞付きだったせいでもある。
読み始めて20ページほどは、翻訳文が少々薄ぼんやりしているせいもあり、
おもしろそうな期待がもてなかった。
ところが、小旅行に出かけようとしているアリーの描写に入ってから、
だんだんと、中断するのが残念なほど引き込まれ始めた。
このアリーの小旅行によって、
ノアとアリーの15年ほど前の忘れられない恋が再燃する。
その両者の心の動きが細かく描かれ、なかなか緊迫感が漂っている。

その物語は、アリーが婚約者に会いに行ったところで終わってしまう。
そして、現在は、ノアは80歳になっている。
居住型看護施設で、自らも重病を患いながら、
妻のアリーに毎朝彼らの(上述の)出会いの物語を読み聞かせている。
アリーはアルツハイマー病が進行して、もう記憶を失っているのである。
読み聞かせられる物語は、架空の、ノアの作品か何かだと思っているし、
ノアに向かって「ところであなたは誰?」と尋ねる状態である。
けれども、病状の進行の割には意識がしっかりしていると言って、
医師や看護士の驚きの的である。
しかも、1日を共に過ごした末に、ノアの名を呼んで愛を語ることもある。
ところが、そんな奇蹟もすぐに彼女を襲う幻覚が妨害してしまう。

韓ドラでおなじみになった、ぐちゃぐちゃした波瀾はない。
結ばれたと思ったら重病で死んでしまうなどという残酷さもない。
唯一あったのは、アリーが婚約を解消しなければならなかったことだけだ。
そして、アリーとノアは40年以上結婚生活を続け、4人の子どもを育て、
アリーはノアに励まされて画家としても大成する。
幸福な生涯だったと言ってよい。
彼らの現在の悲劇は、老後に襲ってくるいくつかの可能性の1、2に過ぎない。
アリーの病気は諦めざるを得ないような種類のものだし、
もうすでに十分幸福な結婚生活を送ってきたと言ってよいだろう。
しかし、80歳のノアは、自らも持病と闘いながら、あきらめない。

彼ら自身の物語を読み聞かせるというのは、
まだ記憶を失いきってなかったころの、アリーの依頼でもあったようだ。

「あなたへの愛は尽きません。深く愛しているから、病気が進行しても、
 あなたのもとに帰る道を見つけると約束します。
 そしてそこに、この物語が登場するのです。
 わたしの記憶がなくなって、途方に暮れたり、寂しがっていたりしたら、
 このお話を読んでください。あなたが子どもたちに話したように。
 そうすれば、きっと自分の話だとわかります。
 たぶん、わたしたちはまたいっしょになれます。
 あなたを思い出せない日があるからといって、わたしを怒らないで。
 そういう日が必ず来るのですから」


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