| 2004年09月02日(木) |
小説「ICO」第1章 |
この小説を読みたくなったのは、ゲームの余情のためである。 その余情は、ゲームの中に言葉が極度に少ないことからも膨らんでいる。 最小限の言葉しか使われていないのだ。 イコが城に連れられてくるオープニングでも、説明は何もない。 かろうじて、付属の冊子にこんなあらすじが書かれているだけだ。
「イコには角が生えていました。 角が生えているのは村中でもイコだけでした。 村のしきたりでは、角の生えた子どもが生まれると、その子は、 海の上にそびえ立つ誰もいないお城に生贄として捧げられることに なっており、今年はイコがお城に連れて行かれる年でした。 13歳の誕生日、3人の神官に連れられ、お城に向かう馬の上でも、 イコは暴れたりしませんでした。 自分がこれからどうなるのかはだいたいわかっていたけれど、 それは自分にとって当然のことと思っていたからです」
小説は、この部分に全体の3分の1近くを費やしている。 村長の苦渋、その妻でイコの養母であるオネの悲哀、 イコの友だちトトの危険な冒険などが中心に描かれている。 しきたりをめぐる村人のようすなども、なかなか行き届いている。 ゲームにはなかった話だが、まさにあのゲームの世界の話に思われる。 それでいて、これは明らかに作者の創作であって、 通常出版されているドラマやゲームのノヴェライズの域ではない。
生贄となるべき角の生えた子どもは、数十年にひとり生まれてくる。 それは、霧の城からの要求なのだ。 角の生えた子どもは、村長夫婦が引き取って育てる。 責任を持って、生贄として送り出す年齢まで保護するためである。 実の両親は村から追い出される。
生贄として選ばれて生まれた子どもは、肉体的にも精神的にも優秀で、 養育にあたった村長の妻オネは、その子が可愛くてたまらなくなっている。 生贄として出発する日に着せる、御印の入った衣を織る義務があるのに、 涙に暮れてなかなかはかどらない。
イコと仲良しのトトは、事情をよく知らされていないために、 イコを逃亡させたいとか、一緒に城に行きたいとか、 何とかイコを救おうとさまざまに思案する。
イコ自身は、村長から長年に渡って言い聞かせられた来ただけでなく、 村長に連れられて行った「禁忌の山」から見た衝撃の光景によって、 自身が村を救うために生贄となる覚悟はしっかりできている。 ただ、村のしきたりのため、それをトトに話すことはできない。 その「禁忌の山」からの光景とはどんなものか?
トトは、イコの生贄の旅に先回りをして合流しようと企てる。 そして、村長以外は入ることを禁じられている「禁忌の山」に入る。 そして、そこから、何もかも石化されてしまった村を見る。 トトはその村に入り込んで、その石化をつぶさに見る。 人も家も、家の中にあるすべての物も、何もかも石となり、 しかも長年の風化でもろく、簡単に砂となって砕けてしまう。 これが、しきたりに背いた村に対する、霧の城からの制裁らしい。
突然、空中に女の顔が現れ、村に入り込んだトトを咎める。 トトが乗ってきた愛馬は、女の息に吹かれて石になってしまう。 トトも危うく息にかかりそうになりながら逃げ場を求める。 地下の部屋に逃げ込んでも、あるものは石ばっかりだ。 しかし、トトは奥の暗闇の中に、唯一石化されていない書物を見つけた。 その書物は光を放っていて、トトを守ってくれそうである。
トトは瀕死の体で村に帰り着く。 書物を村長に託すと、トトは石と化してしまう。 村長はその本に描かれた御印を、特別な力を持った印だと察する。 妻に織らせているイコの衣の御印を、その本の御印に織り直させる。 イコだけでなく、村をも救う力になることを期待しつつ。。。
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