TENSEI塵語

2004年08月12日(木) 「天使と悪魔」

「ダ・ヴィンチ・コード」の作者の、前作である。
これもまた、たいへん刺激的な問題を扱っている。

殺された物理学者レオナルド・ヴェトラの共同研究者でもあった、
彼の養女のヴィットリアは、2人の最新の研究をこう説明する。

「父はある実験を計画したんです。
 科学と宗教の歴史における最も激しい争いのひとつを解決したいと願って。
 天地万物がどのように現れたかをめぐっての争いです。
 言うまでもなく、聖書には神が世界を創造したと記されています。
 光あれと神が言って、この世のすべてが茫洋たる無から現れたのだと。
 しかし不幸なことに、物理学の基本法則のひとつによれば、
 物質は無からは生じません。
 カトリック教会が1927年に初めてビッグバン理論を提唱した時、、」

「でも、たしか(この発言者はラングドンである)ビッグバンの提唱者は、
 アメリカの天文学者エドウィン・ハップルではありませんか」
「この理論はカトリックの修道士ジョルジュ・ルメートルのものです。
 ルメートルがビッグバン宇宙論を提唱したとき、
 世の科学者はまるで荒唐無稽な理論だと切り捨てました。
 物質は無からは生じないと科学が語っている、というわけです。
 その2年後、ハップルがビッグバン理論の科学的な正しさを立証して
 世界に衝撃を与えると、教会は勝ち鬨をあげ、
 聖書は科学的にも正しいと声を大にして訴えました。神の真理だと。
 むろん科学者たちは自分たちの発見が教会の布教活動に利用されるのを
 よく思いませんでした。そのため、
 すぐにビッグバン理論を数式化してあらゆる宗教的な意味を取り除き、
 その理論が自分たちだけのものだと主張しました。
 けれど、科学にとって不幸なことに、その方程式にはいまだに重大な欠陥
 がひとつあり、教会はそれを槍玉にあげています。
 ・・特異点。創造の瞬間。時刻ゼロ。
 今でも科学は創造の瞬間について解明していません。
 初期の宇宙については、方程式でもかなり効果的に説明できますが、
 時をさかのぼって時刻ゼロに近づくと、われらが数学は突然破綻して、
 すべてが意味をなさなくなってしまう」

「父は、創世記が現実にありえたと立証する実験を計画したのです。
 父は宇宙を創造しました、、、完全なる無から。
 わかりやすく言うと、ビッグバンを再現したんです」

「もちろん、実験の規模ははるかに小さいものでした。
 ごく細い2種類の粒子ビームを、加速器の管の内部で正反対の方向に
 加速させます。2つの粒子ビームは猛烈なスピードで正面衝突し、
 全エネルギーが一点に集約されます。
 父は、極端に高いエネルギー密度を実現させました。
 加速器の管の内部でエネルギーが高度に凝集されると、
 突然どこからともなく、物質の粒子が現れたんです。
 無から花を咲かせた物質。
 原子の中で起こった摩訶不思議な花火のショー。
 ミニチュアの宇宙が生命の躍動を得たのです。
 父は、無から物質が創造できるだけではなく、
 ある強大なエネルギー源の存在を認めれば、
 ビッグバンと創世記の双方にたやすく説明がつくことも立証しました」


そうして創られた物質、「半物質」のサンプルがこの事件の発端のようだ。


 < 過去  INDEX  未来 >


TENSEI [MAIL]