4月から図書部の一員という気楽な立場になって、司書室にも机があるので、 司書室で仕事することが多くなった。 静かでいい場所である。
春休みの終わりかけに横山秀夫の「半落ち」を見つけて読み始めたが、 新学期が始まったら慌ただしくて、まったく読むゆとりがなく、 借りて帰ることはしないで、ずっと司書室の自分の机の上に置いていた。 3、4日前からまた読み始めて、きょう読み終えた。
アルツハイマー病の妻に、殺して、死なせて、と請われて、 妻を殺したかっこうになってしまった警察官の話で、自首してきたものの、妻が死んでから自首するまでの2日間については完全黙秘(だから半落ち)。 実直なことで警察仲間に知られる梶の殺人事件というだけで衝撃なのに、 その梶が、妻の死後、新宿歌舞伎町に行ったらしい疑いがあり、 警察は、警察の名誉のために、虚偽の供述書を作り、隠蔽工作をする。 その隠蔽された2日間の謎をめぐって、刑事、検察、新聞記者、弁護士、 裁判官、刑務所員の6人の、事件との関わりが順に描かれて行く。 それぞれが重い過去をひきずって、今の悪戦苦闘に駆られている感じだ。
梶クンひとりだけは、静かに、澄んだ目で、運命に身を委ねて、 その空白の2日間については決して真実を語ろうとしない。 小説のラストでそれは明らかになる。 それもまた、彼自身が引きずってきた哀しい過去に理由を持つ、 あの2日間にどうしてもしておかなければならない行動だったのだ。 もちろん、誰もが読みながら想像するように、 歌舞伎町へ遊びに行ったわけでもなく、愛人や隠し子がいたわけでもない。 私はこの種のミステリーを、おもしろいと思って読んでも、涙することは めったにないのだが、最後の最後に思わず泣いてしまった。 是非映画も見てみたいものだ。
|