TENSEI塵語

2004年04月19日(月) 高橋源一郎「人生相談」

朝日夕刊の文化欄の高橋源一郎の文章に拍手! である。
うれしい。最近の私たちの思いを実に痛快に書いてくれている。
私も昨夜、橋本さんちに
「あれほど、自衛隊を派遣するときには人道支援とうるさかった人たちが、
 援助に行こうとするやつは非国民かのように批判するとは。。。
 よく支援活動に行ってくれたなぁ、
 自衛隊派遣したせいで危険な目に遭わせて悪かったなぁ、と、
 感謝し、詫びを入れるべきは、政府の方ですよ」
と書いたのだった。

昨日帰国した3人は、何も語らず、会見も欠席した。
深刻なストレス障害だということだったが、
解放後に、想像を絶するほどの圧迫があったのだろうか?
ひょっとして、口封じ???

真相は何もわからないが、彼らを応援しなければならない。

全文書き写しちゃおうっと。長いけど。。。

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 わたしたちは、ついこの間、ある国へ行ってきました。そこで、劣化ウラン弾というものがどんなにたいへんな被害を与えているかを調べたり、見捨てられているストリートチルドレンの世話をしたり、「誤爆」で民衆がどんどん殺されていくのを止めるためにもカメラで現場を撮影したりしようと思いました。周りの人たちも、それはいいことだと言ってくれました。そしたら、ある日、わたしたちは誘拐され、人質にされてしまったのです。こわかった。死ぬかと思った。でも、やっと解放され、目の前に突き出されたマイクに「これからも同じ活動をしたいと思います」と言ったら、いろんな人たちに「反省しろ」とか「謝罪しろ」とか「迷惑をかけるな」とか「ふざけるな」とか言われています。いったいどうなっているのでしょう。わたしたちは間違っているのでしょうか。(匿名希望)

【答える人  高橋源一郎】
 「匿名希望」さんへ。お気の毒に。あなたの国では、どんなにいいことするより、他人に(あるいはお上に)迷惑をかけないことの方が大事なのでしょう。家に閉じこもって、テレビを見ながら「戦争か、たいへんだなあ」と鼻毛でも抜いてる人がいちばん立派なのでしょう。
 実を言うと、わたしの国でも同じようなことが起こっています。そのことについて書きます。もしかしたら、あなたたちの役に立つことができるかもしれないから。
 その前に、ひとつ言っておきますが、わたしはきわめて穏健な生活保守主義者です。わたしは、わたしの国の政府が、信じられないぐらい無能で嘘つきの集団だと思っていますが、だからといって革命を起こそうとは思いません。面倒くさいし。たいへんだし。
 それどころか、わたしは法律で規定された「国民の義務」を遵守しています。つまり、わたしは「寝食を忘れて」働いて得た収入から毎年何百万もの国税を政府に文句もいわずに納めています。そして、わたしは、わたしの払ったそのお金で、政府の役人や政治家たちを雇っているのです。わたしはわたしの義務を完全に果たしました。それ以上の義務はありません。あとは、政府の役人や政治家たちに、彼らの義務を果たしてもらうだけです。つまり、彼らにはするべき仕事をしてもらわなきゃなんない。
 ところが、ですよ。信じられないことに、わたしの国の政府の役人や政治家たちは、仕事をしたくないって言ってるみたいなんですねえ。

 実はわたしの国でも、イラクでボランティア活動をしている人やジャーナリストが誘拐され、人質にされました。そして、やっと解放された。よかったよかった。
 そしたら、その後、政府のエラい人が「『寝食を忘れて』救出活動をした人」のことを考えろとか、文句を言い出したんですよ。わけがわかんないとは、このことですよね。
 だって「国民の保護」は、彼らがいちばん先にやらなきゃならない仕事なんですから。やって当たり前。もしかしたら、政府の人たちは「人質の救済」は「サービス残業」みたいなもので、ほんとはやりたくないのに無理矢理やらされたと思ってるんでしょうか。法律を知らないんじゃないですか。
 それから「迷惑をかけた」と怒ってる人もいました。ヘンですね。その人はいったいどんな迷惑をかけられたんでしょう。わからない。少なくともわたしはぜんぜん迷惑をかけられていません。
 でも、人質の人たちのしたことが「迷惑」なら、そういう「迷惑」はどんどんかけてもらいたい。わたしの「血税」はそのために是非使ってもらいたい。大歓迎です。
 それから、「金がかかったから払ってもらえ」と言ってる人もいましたが、この人もヘンですねえ。だったら、その前に為替差損で何兆円も国に損をさせた人や、誰も来ないホテルを年金基金の金で建てた人に請求書を回しなさいよーーって言ったら、自分たちのところにものすごい額の請求書が来るから、イヤか。

 人質の人たちは、いいことをしようと思って個人で海外へ行ったんです。そしたら、彼らの力を超えたものに拉致された。そういう時のために、わたしたちは政府とか役人とかを雇っているわけです。「海外危険保険」を税金を出して買ってるわけ。まあ、ガードマンみたいなもんですよ。そしたら、「保険は効きません」と言われちゃった。どうやら、わたしたちは詐欺にあったみたいなんですね。

 アメリカ軍はイラクでがんがん女子ども老人をぶち殺しています。日本政府はもちろん見て見ぬふりです。
 そんな国の軍隊がのこのこ出かけてイラクの人たちの反感を買い、日本へのテロ攻撃の危険を増やしてしまったのを、民間のボランティアが(政府の意向に反して)民衆に向けて活動することで、その危険を減らしてくれたのです。
 彼らは、日本人の名誉を高め(その結果、日本の安全に寄与し)ました。ブッシュに気に入られることばかり考えているコイズミのような人間だけでなく、いい人間もいることを、イラクの人たちに証明してくれたからです。つまり、バカな政府の犯した過ちを、人質の人たちが償ってくれたのです。
 10万人軍隊を送るより、彼らの果たした役割の方が大きかった。だったら、政府や一部マスコミは、まず彼らに感謝状を贈るべきではないでしょうか。それが非難の嵐とは。
 わたしはわたしの国の人質の人たちこういいたいです−−−こんな恩知らずの国のことなんかもう放っておきなさい。
  (おわかりのことと思いますが、質問も筆者作です)

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