2001年09月05日(水) |
「風の谷のナウシカ」(2) |
「風の谷のナウシカ」における〈清浄の地〉。。。
「ナウシカ」物語の世界は、汚れた大地である。 腐海はその代表であり、瘴気を発散し、瘴気をまともに吸えば血を吐いて死ぬ。 風の谷とは、腐海の近くにありながら海から吹く風によってかろうじて守られた地である。 けれども、もちろん風の谷も決して清浄の地ではない。 いつ腐海の菌に侵され、そうなればたちまち土中の毒素を吸い上げつつ繁殖し、 腐海に飲み込まれるかわからない、危険をはらんでいることは他と変わらない。 けれども、汚れているのは腐海そのものではなく、大地なのだ。 腐海の役割は、土中の毒素を吸い上げて瘴気を発散させつつ、 大地を清浄にすることにある。 腐海の底には、瘴気のない空洞のできている場所がある。 そこはやがて、植物も役割を終えて石化し、清浄の地となりうる。 何百年もの営みであるが、腐海の果ては憧れの清浄の大地であるとも言える。
ナウシカは、シュワの墓所に至る前に、清浄の世界に連れられる。 巨神兵の放つ光のために体が衰弱しきっていた。 薬湯に浸かり、食事をすると心身ともに癒され、ふと現世のことを忘れかける。 「なんだっけ。。。 何か思い出さなきゃいけないのに。。。 なんて安らかな世界。・・・いい気持ち。。。。」 一方、同じくここに招待されたクシャナの2人の兄王たちは、 もうすっかりこの世界になじんでいて、詩や音楽に興じている。 けれども、ナウシカはふとテトを亡くした悲しみに襲われて、我に返る。 逃げだそうとすると家畜たちがみな「行ってはいけない」と阻止しようとする。 やっと壁を1つすり抜けようとしたところで、再び番人の男と出会う。 執拗な誘惑。 「そなたたち人間は飽きることなく同じ道を歩み続ける。 みんな自分だけは過ちをしないと信じながら、 業が業を生み、悲しみが悲しみを作る輪から抜け出せない。 この庭はすべてを断ち切る場所。。。 トルメキアの2人の王子を見ただろう。 彼らは生まれてはじめて、安らかな喜びを感じている。 そなたのしようとしていることは、もう何度も人間が繰り返してきたことなんだよ」
挫けそうになるナウシカのもとに、念力で〈森の人〉セルムが現れる。 セルムに向かって、番人は言う。 「そなたたちは腐海の意味に気づいているはずだ。 なぜ腐海の尽きるところに住めないかを。。。 腐海がその役割を終えたときは、ともに滅びるときだとも。。。」 「そなたたちは腐海の尽きる地へいくたびも人を送り込んだはずだ。 しかし、誰ひとりもどらなかった。みな血を吐いて死んだからだ。 今は聖地としてタブーになっておろう。 肉体は拒絶され、心でしかたどり着けない土地を、なぜ希望などと偽り続ける? そなたは知っている。人間の体がもとから変わってしまったことを。 汚した世界に会うように。。。 自分たちだけではない、草や木や動物まで変えたのだ」
この番人のことばを聞いて、ナウシカは長い間の疑問を解く。 「火の7日間の前後、世界の汚染が取り返しのつかぬ状態になったとき、 人間や他の生物をつくりかえた者たちがいた。 同じ方法で世界そのものも再生しようとした」 つまり、腐海も人の手で作り出されたのだ。 こんな目的をもった生態系などは、生命の本来のあり方にはそぐわないけれど、 千年前絶望の中にあった人々の、必死に求めた希望だったわけである。 「計画では、今は再生への道程のはずでした。 けれど、現実には愚行はやまず、虚無と絶望はさらにひろがっています」
セルムは、腐海も王蟲も人為の産物だったという考えに戸惑う。 「森(腐海)はひとつの聖なる生命体と私たちは感じてきました」 しかし、ナウシカはそれも否定しない。 「私、いまもそう感じています。 〈個にして全、全にして個〉・・・ある偉大な王蟲が教えてくれました。 たとえどんなきっかけで生まれようと、生命は同じです。 精神の偉大さは、苦悩の深さによって決まるんです。粘菌の変質体にすら心があります。 生命はどんなに小さくとも、外なる宇宙を内なる宇宙に持つのです」
そして、ナウシカは「真実を見極めるために」墓所に向かう。 そこでの言葉のやりとりを、昨夜先に書いた。 その前に、墓所の前で、ナウシカはセルムに語りかける。 「どんなにみじめな生命であっても、生命はそれ自体の力によって生きています。 この星では生命はそれ自体が奇跡なのです。 世界の再建を計画した者たちが、あの巨大な粘菌や王蟲たちの行動を、 すべて予定していたというのでしょうか。・・・ちがう。 私の中で、何かがちがうとはげしく叫びます。 あの黒いもの(墓所)は、おそらく再建の核として遺されたのでしょう。 それ自体が生命への最大の侮蔑と気づかずに。。。」
・・・さ〜て、これらのナウシカのメッセージをどうまとめることができるだろう。 常に共通して流れているものは、人為の驕りに対する警告のようでもある。 どんな状況に生まれようと、生まれたものはその運命を引き受けて生き抜くしかない。 しかも、この地球は、この世界は人間だけのものではない。 人間だけの都合によって改造すべきものでもない。 人の命を尊ぶだけでなく、動物や植物の命も尊び愛する。 ナウシカは、あらゆるものに〈心の耳〉を傾ける。。。 また、「ナウシカ」の世界は、大地が汚れているだけでなく、 人間世界もまた空しい戦闘に明け暮れる汚れた世界である。 ナウシカの存在は憎悪を浄化し、人々を、また部族間を結びつける。 ・・・こんな材料をもとに考えていってみよう。
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