しにがみ  2005年12月25日(日)




しにがみはいのちをとりにおりてった。

そのおおきな、おおきなくろいかまで、からだがなくなって、たましいをぬけだすしゅんかんを、とろうと。

そのおおきな、おおきなくろいかまで、しにがみのせかいへとつれていこうと。

しにがみはそのために、にんげんかいにおりてった。

「やあ、こんどのにんげんはどんなんだろう」

このあいだは、あしもたたないおばあちゃんだった。

おばあちゃんのたましいは、しにがみのかまをいやがってからだにもどろうとするもんだから、しにがみはちからをいれてしまって、おばあちゃんのたましいはきずついた。

きずついたたましいは、てんごくでも、じごくでもいやせなくて、うまれかわったときにじんせいをかけていやすしかない。

それはそれは、とてもむずかしいことだけど、

かまにさからったんだからしかたないとしにがみはおもった。

そのまえはちいさなちいさなおんなのこだった。

しろいべっどのうえによこたわり、からだがくちかけているときだけにみえるしにがみをじっとみつめていた。

てにしろいはなをもったそのおんなのこはしにがみのかまにさからおうとせず、なにもいわずにしにがみのかまにおさまった。

あのしろいはなのなまえをしにがみはしらない。

こんどはおとこだった。ふとんのうえによこになって、まわりにたくさんたくさんひとがいる。

「やあ、きみ、ぼくがみえるかい?」

おとこはくびをふった。みえてるのにくびをふる。やあ、にんげんて、おかしいな。しにがみはよくおもう。にんげんはよくこれをする。

しくしくと、ないてるこえがした。

なきごえなんていくらでもきいてきた。やあやあ、なきごえなんて、かなしかないよ。くるしかないよ。にんげんなんて、ないてうまれてくるくせに、しぬときだって、なくのかい。

しにがみは、ないてるにんげんをみた。おんなのこだった。

おんなのこは、おとこのこのなまえをよんで、しにがみのしごとをひていすることばをいう。

しにがみにはどこからでてくるかわからないなみだを、にんげんしかしらないところからたいりょうにひっぱりだして、おとこのこにしがみついて、なく。

しにがみはしんじられなくなって、どうしようもなくて、おおきなおおきなくろいかまが、うごかなくなった。

しにがみはしごとができなかった。はじめて、しにがみはにんげんかいにいって、たましいをとらなかった。

でもしにがみはそうするしかなかった。おんなのこのないているのをもう、みたくはなかったから。

しにがみはもどると、かまをとりあげられた。

「しにがみがたましいをとらないで、いのちをあたえてやるなんて、おまえは、しんでしまうぞ」

しにがみはさからわなかった。いいさ、かまぐらい、あげるよ。やあ、でもね、あのこのなみだはもう、ほしくはなかったんだ。

「しにがみにたましいは、ないんだぞ。にんげみたく、うまれかわれるわけじゃ、ないんだぞ」

やあ、そんなこと、しっているよ、しっているよ、でも、でもね。

「あのおとこをいかすために、あのおとこのかわりのいのちをもらってこねば!さあ!だれにしようか!おまえの、しごとのふてぎわに、いったいだれのいのちをもらおうか。そうだ、そう、あそこにいる、あのおとこのとなりにいる、おんなにしよう。そうだ、そう、それがいい!やい!だれか!あいつのたましいをとってこい!」

…………。

やめてくれ!あのこの、あのこの、あのこのいのちだけは、とらないでやってくれ!

しにがみはひっしにさけんだけど、もういちどかまをあたえられ、いわれた。

「おまえが、とって、くるんだよ」

おんなのこはしにがみがみえていた。しぬことがきめられたにんげんはしにがみがみえる。

しにがみは、かまをもって、おんなのこをみた。

「ごめん」

おんなのこはわらった。しにがみはなんでおんなのこがわらうのかわからなかった。

「こわくは、ないの?」

おんなのこはくびをふった。やっぱり、わらってた。

「ないてるひとなんて、こわくはないわ」

しにがみのなみだは、まっくろで、くろいしみをつくっておちてった。

そのしみがじわじわとおおきなおおきなやみをつくりだし、そのやみがしにがみのあしもとにとどくと、しにがみはたおれた。

「やあ、もう、ぼくは、しんでしまうよ。きみのたましいをとらずに、ないてまでしまうなんて、もうぼくのいのちは、ゆるされないよ」

おんなのこはなきだした。しにがみがしんでまでみたくはなかったなみだをおんなのこはまた、ながしだした。

だんだん、しにがみがつめたくなってく。だんだん、やみへちかづいてく。

しにがみはこわくはなかった。おんなのこがないているのがいやだったけど、それでもこわくはなかった。

おんなのこはないてないて、やがていった。

あのとき、しにがみがたましいをとらずにいたおとこにむかっていったことばとおなじことをいった。

「しなないで」

「しなないで、いきて」

しにがみはめをまんまるくした、そしてわらった。

わらった。








   しにがみと、おんなのこのはなしは、これでおしまい。







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