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■ Answer
最初は突っ立っているだけのトーテムポールだった君が、今は僕につめよってキスをねだる。年下の恋人は厄介だと忠告したのは、八歳年下の恋人と再婚した母親だった。その忠告に耳を貸さなかった僕も悪いが、勝手に動き出したトーテムポールはもっとタチが悪い。あの夜、いくら男にフラれたからといっても自棄を起こさず、もっと慎重に相手を選ぶべきだった。 僕はそもそも、恋愛経験もろくにないような坊やを相手にするのに相応しい人間ではない。二年前までエスコートをしていたし、プライベートでセックスをする相手もころころ変えていた。十代の頃はクスリに嵌ったこともあるし、アルコールに逃げたこともある。そういった過去を僕は包み隠さずすべて話したけれど、真っ当な君の頭は、それらをリアルにイメージすることができなかったらしい。 「過去は過去だから」 まるでカウンセラーのような笑顔を浮かべそう言った君が、ひどく遠い存在に感じられた。僕だけが薄汚れた現実を生きているような気分だった。
君が顔を寄せ、後ろめたさが残る僕の唇にキスをする。数え切れないほどの男とキスをしてきた僕の唇も、セックスをしてきた体も、ランドリーに行けばコイン数枚で汚れを洗い流せるシャツのように簡単にリセットすることができればいいのだけれど、さすがにそんなわけにはいかないし、僕自身、後悔しているわけではない。誰だっていい生活がしたいし、若いうちは色々な相手と楽しみたいものだ。
君の手が、早々とキスから逃げようとした僕の腕を掴む。まだ真新しい君の指が掴むべきものはもっと他にあるはずだ。そう助言したいけれど、してしまったら彼がその助言に従う可能性を考えて僕は少しだけ怯える。 普段はマイペースで、食べるのも遅いし、スポーツマンのくせに歩くのも遅いし、本を読むのもDVDを選ぶのだって遅くていつも僕をイライラさせる君だけど、僕が逃げ出したいと思うときに限って君は敏感にそれを察し、僕の逃げ道を強引に塞ぐ。 君は僕から手を離さない。 それを当たり前だと思ってしまうことを、僕は恐れてるのかもしれない。 捨てられたときに、痛手を負うのはもうたくさんだ。君の後ろ姿を見送る覚悟をいつだって僕は持っていなくてはならない。離された手を、当たり前だと感じるように。
君が僕の腕を掴んだまま、僕の顔を見つめて言う。 「今、君が考えていることに対する僕の答えは、すべてNOだよ」
あの夜、僕はやはりもっと慎重に相手を選ぶべきだった。 こんなにもやりきれない気持ちを与えられる準備なんて、僕は生涯したことがなかった。 これほどまでに、誰かを愛したいと願ったことも。
2007年07月02日(月)
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