◆サイトは閉鎖しました。が◆
天竜



 プラトニックセックスに負けるな企画

鉄鼠の檻文庫版を読み終えまして、きっと誰も書いていないだろうカップリングに思い切ってチャレンジしてみることにしました(笑)←恐いもの知らず。
どど〜ん、托雄×英生!知らない方のために、たくゆう、えいしょうと読んでください。二人とも原作では禅坊主です。デキてました。
で、結局置く場所に困ったので、日記で連載します(笑)全三話。
どうぞ笑って許して頂けるかたのみ、読んでやってくださいませ〜♪


◆◇◆風の音 第1話◆◇◆


――――草の乱れずして生じるを叢と曰い、木の乱れずして長ずるを林とい曰う
禅寺で修行をする雲水たちをよくこのように表現する。
しかし、思う。
草の一本一本も、木の一本一本も、己が叢と呼ばれようと林と呼ばれようと、それは呼称が変化するだけであって、己自身は何ひとつ変化などしない。いや、本当の草や木に至っては、「己」という檻すら持っていないのであろう。そこに存在するということすら、意識しているのかどうか――――
私は、どうなのだろうか。
そう考えること自体、禅僧に在らざるべき行為なのかもしれぬ。

何も考えず、何も見ず、何も聞かず、そして「無」すら感じず、自然の木々のようにただそこにあるという境地、自己も外界もその堺すらすべて忘却し、そしてすべてを知るというその感覚とは一体どういったものなのだろうか。

あれから10年の月日が経った今でさえ、私はあの檻を忘れていない。
赤い炎、赤い血、赤い着物、赤い咆哮、赤い……
 
 

「英生様」
そう呼ばれ、足を止める。
「どうしました?」
「お客様がお見えです。このようなお時間なのでお断りしたのですが、どうしてもと仰るものですから…如何致しましょう」
「どなたなのですか?」
二十歳にも満たない若い雲水は小さく顔を傾げ、少し言い難そうに云った。
「英生様の旧い朋友とお伝え頂ければ分かると仰っておりました」
「…分かりました。すぐに参りましょう」
ぺこりと頭を下げ、音もなく去った雲水の後ろ姿を見つめ、英生は戸惑いがありありと浮かんでいるだろう自らの顔を軽く手のひらで撫でた。
「……修行が足りないな」
動揺を隠せない己に明日からの更に厳しい修行を課せながら、英生は小さく嘆息する。


その人物は雲水が案内したであろう客間にはおらず、庭にある楓の脇に立っていた。
しかし、最初英生にはそれが自分を訪ねたであろう客人だということに気が付かなかった。何故なら、彼のいでたちは寺を一歩出れば溢れ返っているだろう現代人のその姿であったからである。法衣ではなくざっくりとした黒いセーターに身を包み、剃髪されていない髪―――短髪ではあったがそれは、彼の印象をがらりと変えていた。
英生の足が一瞬止まる。
しかし、その男はゆっくりとこちらを振り返り、10年前と同じ笑顔で英生に微笑みかけた。
「―――やあ」
「托雄…さん」
「ああ、久しぶりだな英生」
あれから10年。山を降りて以来、一度も会うことがなかった托雄がそこにいる。数日前に会いに行くと電話をもらい、英生は旅路の途中に寄るのだとばかり思っていた。
思わず言葉を失う。
「そんなに驚かれると、おれも困る」
「あ、あなたは、もしや…」
托雄はいたずらっ子が悪戯を看破されたような無邪気な笑顔を見せる。
「明慧寺を出て二年後に還俗した。もう禅僧じゃない」
「なぜ?なぜですか?」
その問い詰めに、禅僧としての礼節はなかった。まるであの頃にもどったように、英生は必死の形相で托雄の腕を掴む。
托雄はその手を優しく解き、「お前はまったく変わらないな」と懐かしげに目を細めた。
「少し、歩くか」
「…な、何もない庭でございますが」
英生が我に返り、自らの痴態に白い頬を赤面させながらそう言うと、托雄はひとり禅寺の広い閑散とした庭を歩き出す。英生もその後を追った。


2001年09月28日(金)
初日 最新 目次 MAIL