たりたの日記
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2007年03月16日(金) 東北旅日記 7 < 男鹿半島へ>



 さて、東北旅日記、今日で最後にしよう。
Sが、「書いてしまうまでは旅が終わらないのでしょうね」とメールをくれたが、実際そうなのだ。
書いてしまわない限りは旅は終わらない。予定表や、ガイドブックや地図やパンフレット、書き散らしたメモや写真などが、片付けられないので、今持ってパソコンの周囲に散乱している。

 ここに書いたかどうかは記憶していないが、3月5日、Sから秋田駅で見送られ、19時6分のこまち3号に乗ってから22時42分に大宮に着くまでの間、わたしは、ずっと紙にペンで旅の記録を走り書きしていた。それはその時の時間から順に遡る感じで、電車が、秋田ー盛岡ー仙台ーと進むのに合わせて、その土地での事を書き、大宮に着いた時にちょうど初日の蔵王での事を書き終えたのだった。
 おもしろい事にはわたしの座席の同じ並びの一番端っこに、作家と思しき中年の男性が、しきりに手書きの原稿を書いていた。もしかすると、わたしはその人に煽られるかっこうで書き続けたのかもしれない。

 前置きが長くなったが、この最後の日記はその時、秋田から電車に乗った直後に書いたものをそのままここに記そうと思う。あの時の気分をメモを読むことでくっきりと思い出すことができたから。



< 3月5日の帰りの電車の中で書いたメモから>

 3月5日、秋田駅から19時6分東京行き「こまち34号」に乗る。
12号車4番D席に落ち着いた。幸いな事に空いている。わたしの隣もまたその隣も周囲はほとんど空席だ。大宮に着くまで、旅の最後の3時間半をここで過ごすことになる。

 もうすっかり暗くなった車窓に雨が叩きつけている。風が強いようだ。
今日は一日、どんよりした曇り空で、時折雨に見舞われるといった天気だった。今日一日をいっしょに過ごしたSは昨夜からしきりに天気の事を気にしていたが、わたしはこの悪天候を気に入っていた。今日訪れた場所には、この天気こそがふさわしいように思えた。

 Sがなまはげ館の後に連れていってくれた入道崎では、ジャケットのフードが吹き飛ばされそうなほど強い風と、風の混ざって飛んでくる雨粒に見舞われたが、その荒々しく寒々とした空の下で、入道崎の絶景はよりいっそう凄みを増していた。日本海を見るのはおよそ初めての事だったのに、その暗い海がなんともなつかしいのだった。いつの頃からか、わたしはわたしの心の中に、このように灰色の暗い、茫々とした印象の海を写していたらしい。そして今日、実際のその海に出合った。


 海岸近くに点在する黒々とした岩の形は、何とも寂しい様子をしていて、その寂しさ具合が何とも良かった。
男鹿半島の水族館では様々な魚を楽しんだが、またその建物から見える海もまた忘れ難い美しさだ。
 このように美しい風景の中に入れば、お腹も空かない。わたしがお昼は食べなくてもいいわというと、Sが困ったような様子で、レストランからも海が見えるから行こうと言う。
 Sが連れて行ってくれたのは男鹿水族館の側の「帝水」という温泉宿で、なんともりっぱなエントランスだ。12時半の予約を1時間も過ぎたという事で、お店の方はずいぶん気をもんだ様子らしかった。そんな事ならクラゲや白熊にうつつをぬかさず、早くこちらに来たのにとSに言ったが、彼女はわたしが水族館が好きな事を知っていてせかしたくはなかったのだ。


 エントランスからしばらく歩き、奥の間に通される。そこにはすでに会席料理のお膳がしつらえてあって、感動的な事にはそのお膳に座ると目の前がすっかり海なのだった。
美味しい手の込んだ料理はそれだけで楽しいものだが、海の美しい景色がそこにあるのは何と素晴らしい事。蔵王では雪野原の中、遠く月山を眺めながらの昼食。昨日は花巻・イギリス海岸でのピクニック。そして今日は男鹿半島の海を眺めながらのランチ。なんと贅沢な時をいただいた事だろう。

 泊まり客ではないのにタオルセットも用意されていて、温泉に入れるという。温泉はもういいというS(その前の晩と朝にわたしたちは大潟の温泉に入っていた)をそこに残して、わたしは温泉へ。
 ここにも海がすっかり眺められる内湯と海に面した露天風呂がしつらえてあった。今日は嵐かと思われるほど風が強かったが、わたしは吹き飛ばされそうに強い風を受けながら、露天の熱い湯に体を沈めていた。ここは海と入り陽の宿という事だから、ここからの入り陽はさぞかし美しいことだろう。
 誰もいない露天風呂で、ひとり海風のエネルギーを浴びながら夢のようなひとときだった。

 宿を3時に出て、Sの運転する車でリアス式海岸に沿って続く「おが潮風街道」を走り秋田へ。
海を眺めながらのドライブは素敵だ。
 秋田市街へ入る手前の海岸近くのコーヒーハウス、Sが時折、そこへ行くためだけに車を走らせてやってくるというお店へ立ち寄り、一時間ほどゆっくりする。
 わたしも相当な規格外だが、Sはさらにそのスケールが大きい、言うことがあんまり可笑しくて、さんざんっぱら笑う。言葉だってすっかり染ってしまって、わたしときたら、怪しげな秋田弁でしゃべっているのだった。

 秋田駅。今度はもういつ会えるか分からないからしんみり・・・さっきの笑いもどこかへ行ってしまった。
 そして今、静かな夜の新幹線の中。電車は角館を過ぎ田沢湖へと向かっているところ。
もうじき盛岡。そこには昨日出会い、お別れしたTさんがいる。

*

さて、ようやくこれで東北の3日間の旅がおしまいになりました。
読んで下さった方はお疲れさまでした(笑)
3月11日(日)の日記、東北旅日記4<宮澤賢治記館〜イギリス海岸〜小岩井農場>は写真を載せそびれていたので、今日、写真も載せました。
携帯で撮ったものですが、岩手山の手前の一本桜をカメラに収めることができてよかったです。




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