たりたの日記
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2006年03月31日(金) 祖母山のふところへ

祖母山のことは知っていた。

故郷にある山というのに遙かなたの山だった。

ある時、山という山にはどれにも登りたいというワイルドな思いに晒されるようになり、

故郷に戻れば、祖母山に入らないではいられず、気はそぞろだった。



3月30日早朝、知人に道案内を頼み、祖母山へ。

登山口に着けば折からの雨。

「行きましょう、原生林の中ではあまり濡れませんから」

と祖母山を良く知るその人は歩き始める。

午前7時20分。



深く切れた渓谷の底、清流が音をたてて走り、滝がほとばしる。

雨はじきに霰に変わり、やがて激しい風。

冬のなごりを留める原生林のおどろおどろしい木々が、

轟々と呻き声をあげる。

風の中に雪が舞い、吹雪さながら。

「雪ではないのです。木々にふきつけられた霰が風で飛ばされているのです」

確かに空は明るい。

急坂をよじ登り、よじ登り、

スパンと明るく開けた場所へ出た。

ここが国観峠。

いちめん氷に覆われた白銀の世界。

樹氷の中を分け入り、分け入り、

午前10時、祖母山登頂。



深深と山、また山。

遠い木々は新しい雪をふわりと着て、その美しさったら・・

夢中でシャッターを切る。

マイナス3度、手がかじかみ、もうザックも開けられない。

この美しさの中にとどまることは許されないのだろう。

想いを残し下山。


樹氷の白い林が、陽に照らされみるみる溶け出す。

気がつけば足元の雪はすっかりなくなっていた。

太陽は追いかけるように白銀の世界を消しにかかったのだ。



12時40分登山口到着。

そこは春の陽気に満ちていた。

白銀の世界のなごりすらなく、

見てきたものが夢のように思えた。

いったいあれは何だったのか・・・



あれはきっと贈り物。

故郷の山がわたしたち二人だけに見せてくれた、

とっておきの魔法。








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