たりたの日記
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2005年11月12日(土) 高水三山へ

前の晩、眠れないままにずっと雨の音を聞いていた。
明日は5時起床、きちんと眠っておかなければバテてしまう、とこういうことを考えるものだから、山行きの前日はまともに眠れた試しがない。
眠れないままに、眠り薬用の英語の本を開いてみれば、たまたま開いたページがinsomnia(不眠症)について書いてあるページで、どうすればいいんだろうと真面目に読み取ろうなどとするものだからますます頭は冴える。
その本には抗うことを止め、祈りのフレーズなどを繰り返し唱えることで解消された事例などを挙げられていた。
明け方の4時になって、ようやく1時間ほど眠りにつけたのは、その本のお陰かもしれないが・・・

眼が覚めてもまだ雨の音はしていた。普通ならこの時点で、山行きはあきらめるのだろうが、前の晩に繰り返しチェックした天気予報では朝は雨だが、午前9時くらいに雨は上がり、やがて晴れになると出ている。この天気予報を信じることにした。

隣で気持ちよさそうに眠っているmGを起さないように、そっとベッドから這い出し、階下へ。
身支度を整え、ザックに雨具やきがえや食料を詰め込み、朝食。
朝食にはプロテインのシェイクとレーズンとアップル入りのパンを少し、それにコーヒー。これで御昼までは持たないから、山へ登り始める前に、エネルギーチャージのゼリーを食べることにしよう。

6時半、家を出る。雨はまだ降り止まない。いったい、この雨の中、傘を差して、トレッキングシューズを履いて、ザックを背負って歩いている姿というのは、人が見ると妙な印象なのだろう。ひたすら天気予報を信じているからなのだが。
新宿へ向かう電車の窓に雨粒が打ちかかる。まだ9時には間があるもの、それまでは雨は降るでしょう。

新宿発8時19分発の奥多摩ホリデー3号の最前列に乗る事になっている。
いつもは登山客で満員状態の車両はがら空き。見回しても、山行きの格好をしている人は2,3人しか見当たらない。他のメンバーは後で乗車してくることになっているが、この雨だもの、わたしが家を出た後に中止ということになったかもしれない。それなら雨具もあることだし、地図も持って来た、わたし一人で奥多摩散策をしようとのんびり構えてiPodでラップを聴く。
三鷹駅、S先生とKさんが乗り込んでくる。よかった仲間が来た。Yさんとは青梅駅で合流。

軍畑(いくさばた)で下車。そして問題のお天気。これが何とこれ以上ないほどのぴーかん。さっきまでの雨は嘘のよう。天気予報を信じてはいたものの、これほど見事なお天気は予想してはいなかった。あまり嬉しくて、携帯で青空をカシャり、心配しているだろうmGに写メールする。「晴れたよ〜」

雨上がりの山、空気は澄み、水の滴る木々の枝に陽の光りが美しい。
8月の一人阿蘇以来の山行き。もううれしくってしかたない。
軍畑駅から脇に流れる川の水音を聞きながら2時間ほど歩くと高水不動尊常福寺。ここで休憩。YさんからおいしいワインをS先生からポルトガルからのナッツをいただく。

 ここの紅葉は美しく絵になる。日頃写真が好きではないわたしだが、なぜか写真モード、カシャりとこの写真。

ここからしばらく登ると高水山の頂上。けれどここが高水山の頂上だと気が付いたのはそこに続く、下り道を折り始めた時だった。急な下りと登りを40分も続けると次のピーク岩茸石山の山頂。

ここは山頂らしく、たくさんの登山客らが食事をしていた。我々は風を避けて、南側の陽だまりへ。昼寝にもってこいのような気持ちの良い空間。ここで昼食。というよりはいつもの酒宴。
わたしはあまり飲めないから200cc入りの保温水筒に焼酎の薄いお湯割りを持ってきたが、Yさんのワインの他にKさんの日本酒、先生のズブロッカもいただきすっかり夢心地。前の晩に作った鮭の南蛮漬と豚の角煮と大根も喜んで食べてもらえて良かった。S先生が持っていらしたかんぱち(だったかな)のカマの塩焼きはずいぶんおいしかった。

どのくらいゆっくりしたのだろう。いつの間にかたくさんいた人達はみな居なくなっていた。我々が出発したのは2時半だった。
さて、これから最後のピーク、惣岳山。地図を見ると40分という時間だが、ここからはもう、ほとんど夢の中を歩いている感じで時間の感覚はすっとんでいる。足元は確かだが、気分はずいぶん夢心地で、眼の前に広がる幻想的な風景の中でただただうっとりと歩いている。

そこで見たススキの群。カメラには収めきれなかったが、この見事なススキの群落が山の斜面を埋め尽くしている。
下から見上げたその眺めは何とも美しいものだった。前にS先生とKさんが歩いているが、わたしは思わず、ススキの群に近づいていきしばらく見入る。思い出して、携帯を取り出してカシャリ。





惣岳山を下り御岳駅へ向かう道、傾き始めた陽の光りが射す杉の木立の道がそれは美しく、何度も足を止める。
このあたりを歩く時、なぜか一人。やっと姿が見えるほどの前方にS先生とKさんが歩いていて、後方にずっと離れてYさん。わたしはその間で、不安なくひとりという素敵な空間。こういう場面が一番好きだったりする。そしてそんな時は歌いたい。イギリスの古いクリスマスの歌やバルバラのシャンソンをこっそり歌いながら歩く。

太陽は沈みかけると速い。辺りは急に暗くなり道が見えなくなる。KさんとYさんがライトを持参していたので、その明かりに照らされながら駅へと急ぐ。軍畑駅近くで熊が出だという記事をどこかのサイトで見たから熊の影がちらりと頭をよぎる。S先生とアラスカで熊に襲われて亡くなったカメラマン、星野道夫さんの話をする。熊が襲ってくる事だって十分在り得る事を知って、あえて避難小屋ではなく、自然と布一枚で隔たっているテントで夜を明かすことを譲らなかった。自然へ踏み入る事はそれほど厳しい事。死ぬのなら熊の爪にかかって死のうという覚悟のようなものを生前の星野さんのエッセイの中に見た時にはどきりとした。と、そんなこと。

ようやく街の明かり、御岳駅では再びたくさんの人。
安堵と心地よい疲れに包まれて電車に揺られて帰路。

8時15分のラテンには間に合わなかったが、ジムへ立ち寄りお風呂に入り、ラテンに出ていたmGと合流して車で家へ。
良い秋の山行きだった。




たりたくみ |MAILHomePage

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