たりたの日記
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7月28日、予定していた阿蘇山行きを実行。この日は母と阿蘇のホテルに泊まることにになっていたのでわたしだけ朝の便で宮地駅へ向かい、仙酔峡から高岳に登るという計画。高岳から火山壁の縁を歩き中岳へ。さらに下って火口東展望所から火口を眺め。下りはロープウェイに沿う遊歩道を歩いて下山。歩行時間は4時間。休みを入れて5時間の行程。ホテルのある赤水駅に母が着くまでには余裕で戻って来ることができる。
朝一番早い電車と言っても三重町駅を9時前に通る九州横断特急しかない。宮地駅、10時10分着。登山口の仙酔峡まではタクシーで15分。駅で登山客を見つけてタクシーの相乗りをするつもりだったが登山の格好をした人は見当たらず、予約してあったタクシーに一人乗り込み、また3時30分に仙酔峡に迎えに来てくれるよう予約する。料金は片道1680円。ガイドブックには2000円とあったからそれより安い。
それにしても人がいない。ミヤマキリシマが咲く5月から6月にかけては観光客が繰り出す仙酔峡も今はガランとしている。必ずや登山のグループがいるだろうからその後に付いて歩けばよいと考えていたが甘かった。ともかくガイドブックを片手に歩き始める。 見晴らしの良い仙酔峠まではすぐだった。しかしそこには立て札があってガスの発生する危険があるので火山の状況を事前に調べておく事。単独行動は危険、グループで行動することと物々しく書かれている。目の前にそそり立つ高岳は尾根に沿った急勾配の登山道を見せている。植物の何もないざらついた火山灰の道。思ったよりも難しそうな山だ。ここを一人で行くのは止めておいた方が良いかもしれないと仙酔峡まで戻って人を待つ事にした。 わたしがキョロキョロしていると駐車場の車にいた男の人がどこへ行くのかと聞いてきた。わたしが高岳に登ろうとしていると言うと、彼は朝6時から登り下りて来たところだが物凄い風で吹き飛ばされそうだった。行かない方がいいと言う。それならばロープウェイで火口東駅まで登り、火口展望所さらに中岳山頂まで往復し、火口駅から歩いて下山しよう。これだとおよそ3時間の行程。
ロープウェイ駅も人はいない。駅付近にガスが出ているから、そこにはとどまらずにすぐに展望所の方に抜けるようにと注意があった。また帰りは強風でロープウェイが運転を見合わせる事が予想されるので片道切符しか出せないと言う。乗客はわたしの他は中岳までは行きそうに見えない犬を連れたサンダル履きの父子三人だけ。
ロープウェイは10分ほどで火口駅に着く。 ガスを吸わないよう軍手を付けた手で口を覆い急ぎ火口展望所へ向かって歩きはじめる。凄い風。
目の前に火口が現れる。もくもくと湧き出る白い噴煙。植物といわず、人といわず、あらゆる生き物を拒否するかのような荒々しい表情をした7つの火口のなんとも壮絶な姿。心を掴まれる。じっと見入っていたいのだが、突風が火山灰を巻き上げ石の粒が顔に打ち付けるため目を開けてはいられない。 この風の中、中岳まで往復する自信はない。しかも頭上に広がった黒い雲からぽつりと雨が落ちてきた。犬を連れた親子はすでに帰路に付いている。誰もいない火口に独りでいるというのはしかしすばらしい気持ちだった。孤独の先にある高揚とも安堵ともつかない冴えざえとふっきれた感覚。この場所にたった一人で居る事ができることは得難い幸運なのかもしれないと思う。
頂上までは無理だとしても、何とか中岳へ通じる断崖絶壁の馬の首と言われるところくらいまでは歩いてみたいと冒険心にそそのかされ、風に吹きさらされながら歩く。実際その尾根からの火口の眺めはなんとも形容しがたい凄さ。しかし物凄い風。気紛れな風がわたしを吹きさらってあちらの火口へ連れていってもおかしくはない。急に不安を感じ、体を低くし這うような格好でなんとか展望所の柵まで辿り着く。
帰りのロープウェイは風のために止まっている。ロープウェイに沿った登山道をゆっくり下山。高岳が大きくわたしの真横に迫っていて、山と二人だけという愉快な気分だった。時間はたっぷりあるので途中にあったピクニックテーブルでお握りを食べたり寝転んだり、山好きの友人達に写メールを送ったりしながらゆっくりと下山した。
翌日は生憎天気が悪かったが母とタクシーで草千里から大観峰へ回る。前日仙酔峡から眺めた外輪山に立っている。草千里の茫々とした緑の原、美しく波打つ杵島岳の山肌。今度は草千里を歩き杵島岳に登るコースでやってこようと思う。
ふるさとにこれほど近い山に初めて触れた事を悲しむべきか喜ぶべきか。こうした形でふるさととの出合い直しが起こっているのだろうと思う。
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