たりたの日記 DiaryINDEX|past|will
仕事帰り、駅で夫と待ち合わせ駅の近くの小さなタイ料理の店へ行った。夫はそのビルの下を通る度に、一度来たいと思っていらということだった。小さな店の中に気さくな感じのタイ人とおぼしき女性が一人いた。厨房をカウンターがぐるりと囲んでいるかっこうで、15席くらいあっただろうか、時間が早かったせいでお客は我々だけだった。必然的に料理を作って食べさせる人と向かいあう形になる。メニューはトムヤンクンとグリーンカレーをのぞくと聞いたことも食べたこのもない物ばかりだった。私は初めて天然のココナッツのジュースを飲んだ。丸のままのココナッツは予想以上にたっぷりとジュースが入っていて、味も私の知るココナッツの味とはまた違うものだった。まさに樹液を飲んでいる感じがした。彼女は飲み物片手に、しかし瞬く間に注文の料理を出してくれた。私たちが食べている間につい先ごろタイにいっしょに行ったという、女友達がワインを下げてやってきたり、かかってきた電話にタイの言葉で話していた。そういうところから彼女に生活も見えてくるのである。そこはもう食べ物屋というよりも個人のキッチンのようでで、私たちは知らないで迷い込んだ客という図だった。しかし、本来の食べ物屋さんとはこういうものなのかもしれないとふと思った。作る人と食べる人が顔を会わせ、そこには食べ物だけでなく、人と人との間に行き交うものが生まれる。学生の時はお金もないのに、くせのある店主が四方山話をしながら作ってくれる居酒屋や小料理屋へも時々行った。その店の空気、並べられた料理、店主の顔や声まであざやかによみがえってくる。そういった人と触れ会う場所に抵抗なく入っていけた。ファミリーレストランや洋風居酒屋のようなところにしか行かなくなった今、食べ物を介して人と人とが触れ合う場所があることをすっかり忘れてしまっていたことに気が付いた。
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