たりたの日記
DiaryINDEX|past|will
ニュージャージーに住んでいたころ、隣に住むビルとエインの庭はことのほかすばらしかった。
二人とも朝の6時にはニューヨークシティーのオフィスに仕事にでかけ、夕方6時頃にそろって帰宅するとスーツ姿のままシャンペンのグラスを片手に、花々の咲き乱れる庭でしばらくすごしていた。
その時分はたいてキッチンで子ども達の宿題やら日本語の勉強をみながら夕飯の支度をしているころで、我が家とお隣ではまったく異なる時間が流れていてわけだ。
それでも年に何度かは夕べの庭に招待されることがあり、私たちはシャンペンを子どもたちはジュースやスナックをごちそうになりながら夕暮れ時をいっしょにすごすことがあった。
昼間の庭も然ることながら、夕方の花々はまるで夢のように美しく不思議な命に満ちていた。 「花を見ていると、週末ごとのガーデニングの苦労も忘れるわ」とエイン。 「エインは『緑の親指』を持っているんだよ。」とビル。 子育てに髪振り乱している私にとってそんな二人の会話は遠いことのように響いていた。
夕方、秋に植え込みをした花々が美しく咲き出した小さな庭に立った。 アメリカハナミズキの枝につるしたウインドチャイムが風に揺れてかすかな音をたて、私は隣の家の庭を思い出した。
「エイン、ビル、見てちょうだい。私もいつのまにか『緑の親指』を持ったみたいよ。もう、芝生の上で車飛びしたり、レスリングをする子どもたちの姿は見ることもないけれどね。」
私が花に囲まれた二人を目を細めて見ていたあの時、二人はきゃっきゃっとじゃれあう我が家の小さな男の子達を目を細めて見ていたことに、今初めてのように気づいた。 チューリップが咲いたら、今年は花の写真に加えて、大きくなった子ども達の写真も送ることにしよう。
|