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新曜社から『ワードマップ 状況と活動の心理学―コンセプト・方法・実践』が出版されるはこびとなり、本日、私のところにも送られてきました。茂呂雄二・有元典文・青山征彦・伊藤 崇・香川秀太・岡部大介の各先生の編になるもので、総勢49名の執筆陣です。自分はともかく豪華です。 これは下記の出版社からの紹介にもあるとおり、いわゆる状況的学習論とか、活動理論とか社会文化的アプローチなどと呼ばれる諸流派の総合的な入門書です。49名のなかには僕が院生の頃、はじめてこうした立場にふれた時、論文は書籍から学ばせていただいた先生方も執筆者にふくまれていますが、と同時に、編者には伊藤さんや香川さんといった僕と同世代、あるいは若手の優れた方々の名前もあります。同じ方向性をもって頑張る方々が増えるのはよいことですよね。
さて、僕はそのなかで『臨床の実践:ことばがつくりだすもの』と題する章を担当させてもらいました。臨床心理学をやっていて、状況論もかじっているというのは、おそらく日本では僕をふくめて数人な気がします。ニッチな専門領域をやっているおかげで、こんな執筆の機会も与えていただいてありがたいことですね。ともかくも僕の担当章ではゴフマンのスティグマ論、ドライアーの日常生活のなかの心理療法、レイブとウェンガーの正統的周辺参加論のなかのAAの記述などを軸にして、臨床心理学や精神医学や、その周辺領域の実践を、状況論、活動理論的にみなおすとどう考えることができるのかの記述を試みました。
例えば、臨床心理学の分野に目をむければ、スクールカウンセラー制度や社会的養護の施設における心理士の導入をきっかけとして、相談室からでて活動するということを真面目に考える人たちが増えてきたと思います。しかし、それは単に「部屋のなかにいるだけでは、1日、誰も相談にこなくて仕事にならない」とか「他の教員に怪しい人だと思われる」といった理由によってなされるのでは、もったいないと思います。なんと言われようと、本当に必要なことだったら怪しまれても外にでてはいけないわけですよね。放射線技師が、「あんな密閉された部屋のなかで検査されるのは嫌だ。なんだか暗い気分になる」と言われても、じゃあ、やっぱり広々したところで外の景色をみながらやりましょうかとはならないですね。相談室という枠組みがどうしてあるのかということには、それ相応の重要な意義があるということも考えていたいものです。
本書でとりあげられている諸流派は、1970年代くらいから、「実験室」のなかの統制された環境のなかで測定される「学習」や「記憶」といったものの妥当性について散々考え、そのとらえ方自体をかえてきた歴史があります。そういうところが、臨床心理のなかで相談室にこだわらない活動をしている方々の理論的導きの糸にもなりえるものだと思っています。臨床心理学のなかで革新的な立場であるナラティブ・プラクティスにも非常に親和性が高いと思います。実際、マイケル・ホワイトは晩年の著書のなかではVygotkyの発達の最近接領域のアイデアを自らの実践にとりいれています。少し耳慣れないアプローチかもしれませんが、実践で考えるためにとても有用な理論的枠組みだと思うし、多くのみなさんに知っていただきたいものです。書店にでたら是非お買い求めくださいませ。
以下、出版社からの宣伝文です。
◆心理学のホットなテーマがワードマップに!
人のこころの営みは、社会、文化、そして歴史という状況に関係づけてはじめて理解できます。私たちのこころは、人々、対象物、道具、記号を媒介にして、社会、文化、歴史、状況のエコロジーの中に織り込まれた絢模様ともいえるでしょう。それを理解するには、状況から始めるしかありません。本書は、このような考え方を、関連する研究領域を含めて多方面から解説することを企図して、社会文化的アプローチ、状況論、文化歴史的アプローチ、活動理論などとさまざまに呼ばれてきた心理学のアプローチの成果を、日本の代表的な研究者が結集してまとめあげました。心理学ばかりでなく、社会学や教育、医療など、隣接分野にとっても待望の一冊です。総勢49名の執筆陣
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