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2008年03月15日(土) |
「患者の語り」が医療を変える |
DIPEx-JAPANの佐久間さんからご恵送いただきました。 ディペックスジャパン:健康と病の語りデータベースの編になるもので、2006年に12月2日に行われた公開フォーラムの記録集とあります。
DIPExとはDatabase of Individual Patient Experiencesの頭文字を組み合わせたものです。個々の患者の体験を集めたデータベースといった意味合いですね。もともとはイギリスではじまったもので、オックスフォード大学のプライマリヘルスケア部門と「DIPExチャリティ」という非営利団体によって作成・運営されているそうです。このDIPExの活動を日本でも行おうとしているのが、DIPEx-JAPANです。DIPEx-JAPANのHPは以下のURLから。
http://www.dipex-j.org/index.html
患者の語りを通して、病気に苦しむ多くの人々に親しみのある情報提供の場となると同時に、ナラティブベイスドメディシンのデータベースとしても、あるいは質的研究の成果としても注目されるものといえます。ナラティブ・プラクティスでいう「共同研究」にもあたるのではないかと思いました。
イギリスではすでに多様な疾患の方々のデータベースができているのですが、日本ではまず、「乳がん」と「前立腺がん」のデータベースからはじめるそうです。「乳がん」は女性、「前立腺がん」は男性というように、病気の語りにおけるジェンダーを意識した選定になっているようです。
こうした患者の語りは、ともすれば匿名で、サトウタツヤ先生の言葉を借りれば「みる人がみてもわからない」ように配慮された結果、臨場感は失われていくものです。DIPExでは、匿名ではあるものの、本人の顔がうつっており、事実上「みる人がみればわかる」どころではありません。調査参加者には、自身の病気が他者に知られてしまうという懸念も考えられますが(もっとも音声のみを希望することもできるのですが)、それだけにとても臨場感をともなったものとなっています(DIPEx-JAPANのHPで英国版のダイジェストをみることができます)。
こうしたデータベースのなかで語るというのは、医療者側のとらえた、医療者側によって語られた病の意味ではなく、患者が自らの側から病を意味づけていくという点で、医療者によってディスパワーされがちな患者をエンパワーすることにつながるようにも思います。
たしかに患者の体験した情報であるなら、テキストにおとしても意味は変わらないのかもしれませんが、ここで患者自身が映像を通して語りかけるというスタイルがもつ意味は大きいと思います。語りの内容ではなく、いかに語られるか、さらに、そこで語っている人が現にいるということがもつ意味が大きいということでしょう。
僕は主に質的研究という観点から興味をもちました。というのもDIPExは医療者などの教育訓練の素材としても使われるということを聞きました。なるほど、まだインタビュー技術もおぼつかない学生にとっては、実際にインタビューをすることによってインタビューイに迷惑をかけることになりますが、その前に、こうした貴重な語りに遭遇できることで勉強できるというのは大きいと思います。百聞は一見にしかずといったところでしょうか。
さて、本書。頒布価格1000円とあります。ご興味がおありの方はDIPEx-JAPANのHPから問い合わせればよいのではないでしょうか。
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