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2007年03月02日(金) 加藤弘通(著)『問題行動と学校の荒れ』ナカニシヤ出版

ご恵送いただきました。オビには「学校は、なぜ荒れるのか。問題行動を変化・発達する現象としてとらえる新しい視点から、「不公平感の再生産としての荒れ」が生まれるメカニズムを明らかにする。」とあります。

加藤さんと初めてお会いしたのは先日最終回を迎えた「次世代人間科学研究会」で、コラボレーションした時です(本書の第3章の「問題行動の継続過程の分析」に相当する部分のご発表でした)。2人とも大学院生でしたね。今は昔。実は、それ以前からお名前はみかけていて密かに注目していたのですが、お会いしてとても頭のキレる方だと改めて思いました。

加藤さんの研究はいつも、ひとひねりしたアイデアがあるのが魅力ですね。問題を追認するのではなく、問題をいままでとは違ったところから見せることで、視点を拡げてくれる研究だと思います。

例えば、<不良少年>というのは、一般的にはどうして「問題に走るのか」となるところですが、そこを「どうして継続するのか」と問う。普通、「荒れた学校」では、問題となる生徒自身への関わりをどうするかということを考えがちなのに対して、むしろ「一般生徒の抱える不公平感こそが問題なのではないか」という視点を提示するなど、なかなか興味深いです。

また、特にIII部の研究は14校、2000人以上の中学生を対象とした実証的なデータをもとに論じられており厚みがあります。著者はサンプリングには偏りがあるといっていますが、しかし、学校というところは一般的にデータがとりにくいところです。まして「荒れた学校」となれば、「そんなことに協力してられっか!」という教員の反応も十分予想されるでしょう。加藤さんらのデータ収集のご苦労は大変なものだったと思います。それだけに価値があります。

荒れを一部の問題生徒の行動としてとらえるのではなく、学校システム全体への対応の問題と考えたとき、一般生徒の感じる「不公平感の再生産」というのはとても重要な視点だと思います。

数年前、私も中学校の生徒指導を担当する教員へのインタビュー調査をまとめたことがあります(松嶋,2004)。そのとき、多くの教員が、いわゆる「一般生徒」への対応をおろそかにしないことを実践的知識として語っていました。結局、問題生徒に関わることで授業ができなかったり、全校生徒への対応が一貫しなかったりすることは不可避的に生じるし、いわばダブルスタンダードな対応になる。普段から生徒とのコミュニケーションを欠かしていなければ、生徒はダブルスタンダードにも不公平感をそれほど強めたりしないのだということが語られていました。

上記は教師の語りの世界ですが、加藤さんの結果とつきあわせてみれば、教師としては精一杯、満足のいく実践をやっていたとしても、実際のところ、嫌な思いをしている多くの生徒がいると考えるのが妥当なところでしょう。学校にかかわる実践家ならば誰でも、こういった、表面上はあまり見えにくい不満感に敏感になっていることが必要でしょうね。

本書は、研究論文をまとめた本ですから、正直、固い印象はあるのですが、しかし、貫かれている主張はとても面白いし示唆的なものです。TVでのねつ造問題など、科学を妄信することへの警鐘がならされている今という時期を考えると、一般向けにわかりやすい言説をならべるものよりも、「実際のところどうなっているのか」を誠実に記述している本書を、一般の人も読んでみてもよいのでは、と思います。


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