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2007年02月02日(金) エビデンスとナラティブ・実証主義と質的研究

臨床心理学のなかで研究を重視する流れのなかでは、エビデンスベースドアプローチを重視する立場はみのがせません。これらはしばしばナラティブという概念とは相容れないか、あまり関連しないものと受け取られているように思われます。しかしながら、エビデンスとナラティブは相補的なものであり、エビデンスベースドアプローチをきわめれば、きわめてナラティブ的な実践にいきつくのではないかという実感ももっています。そもそも、エビデンスベースドアプローチが目指すものは、旧来の<専門家ー素人>間にある権力構造をそのままに、専門家と称される人々の見解を真実としてうけとらせてきた治療に対するアンチとして提示されてきたのですね。臨床心理学という言葉を最初につかったとされるウィトマーは以下のようなことをいっているそうです。

「医学においてclinicalは、単に場所を示す言葉ではなく、それ以前の哲学的・説教的な医学から脱却する時の方法を示していた」

臨床心理学とは、その最初から、実証を志向していたといえるわけですね。これはナラティブの発想にも、質的研究の発想にも通じるものでしょう。・・・・・というような問題意識にもとづいて小論を書きました。北大路書房から2月に西条剛央さんをはじめとしたメンバーで編んだ『エマージェンス人間科学』という本がでます。そのなかで「臨床心理学実践のフィールドワーク:エビデンスによる実践の組織化」と題して、上記のテーマにもとづいた1章を書かせてもらってます。興味ある方はぜひ手にとってみてくださいませ。

さて、そういう宣伝をかこうと思っていたら、ぴったりの以下のようなシンポジウムが開催されるとのお知らせをいただきました。下記の問題意識のうちでは、臨床心理学実践についての研究がそれほど盛んになっていないという現状をなんとか変えていく必要があると、私も、考えています。で、質的心理学会研究交流委員会では2年前に臨床心理士を主な対象として、質的研究法のワークショップを開催したことがありますが、そのとき下山先生にもご協力いただいたのですね。そのときのお話も今回のシンポと共通する問題意識のようにおみうけしました。おもしろそうですね。



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シンポジウム『心理療法・物語・文化』

■ 日時:2007年3月18日(日曜日) 午後1:00−5:00
■ 会場:東京大学(本郷)医学部教育研究棟13階鉄門講堂(赤門から2分)
■ 主催:東京大学・臨床心理学コース下山研究室
■ 後援:東京大学教育学研究科・心理教育相談室 質的心理学会  

第1部:講演(通訳付)

1 下山晴彦  (東京大学)
イントロダクション 「心理療法・物語・文化」

2 John McLeod (英国 アバティ大学) 
招待講演 西洋文化における心理療法の発展:ナラティヴの観点から   

3.北山 修  (九州大学)
招待講演 日本文化における物語と心理療法

第2部 シンポジウム(通訳付)
司会 下山晴彦
4.指定討論1 平木典子(跡見学園女子大学) 心理療法の統合の立場から
5.指定討論2 野口裕二(東京学芸大学)   社会構成主義の立場から
6.指定討論3 西平 直 (東京大学)     人間学の立場から
7.全体討論

■ 申込方法  名前/所属/連絡先住所/電話/ファックス番号を記載のうえ、メールにてシンポ係アドレス sympo@p.u-tokyo.ac.jp に申し込み。
■ 参加費:2000円(学生1000円) 定員:200名(定員になり次第締め切り)
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【シンポジウムの主旨】
世界の臨床心理学や心理療法は、エビデンスベイスド・アプローチによって科学的見解、そして認知行動療法の方向に進んでいます。ところが、日本の臨床心理学の世界は、科学的方法、あるいは認知行動療法には流れずに、独自の道を進んでいます。これだけ西欧や米国の最先端の動きに敏感で、直ぐに追従する日本にあって、心理療法の世界だけが世界の潮流とは違う独自な道を歩んでいることは、注目に値します。
 そこで、本シンポジウムでは、心理療法に関連するナラティヴ論や質的研究法の世界的なリーダーであるJohn MacLeod教授(英国)と日本における物語論の第一人者である北山修教授(九州大学)をお招きして、文化比較の観点を含めて心理療法と物語りの関連性を探求することを目的としました。

【シンポジウムの構成】
第1部では、まずMcLeod教授に西洋文化における心理療法の発展をナラティヴ論の観点からお話いただきます。McLeod教授西洋文化においては、近代以前の伝統社会では人びとは物語を語り合い、助け合って生きていたが、近代社会になり、自我、個人主義、そして科学的思考が強まりにしたがって、専門家に自己の物語りを語る心理療法が生まれ、さらに科学的思考によって機能的な認知行動療法などが評価されるに至っていると論じています。
しかし、日本では、近代社会になっても、心のレヴェルでは、自我や個人主義は育っておらず、ましてや科学的思考などは受け容れず、むしろ伝統的な物語を生きている面があるのではないかとも考えられます。日本文化は、源氏物語に代表されるように昔から物語親和性が強く、それが、日本人が心の問題を考えるあり方に影響を与えていることが考えられます。そこで、北山修教授には、日本人にとっての物語の意味、そして心理療法にとって(自己の)物語を語ることの意味について、お話をいただくことにしました。第2部では、心理療法の発展を統合の観点から論じている平木典子先生、臨床活動に
ついてナラティヴ論から積極的に発言されている野口裕二先生、人間学の観点から物語りの意義について論じておられる西平直先生に指定討論をお願いし、その後にMcLeod教授と北山教授にも加わっていただき、全体討論を行います。


【John McLeod教授の紹介】
英国スコットランドのDandeeにあるAbertay大学のカウンセリング学の教授。今回邦訳出版される「Narrative and Psychotherapy」(邦題:物語りとしての心理療法―ナラティヴ・セラピーの魅力― 誠信書房 近刊)と「Qualitative Research in Counselling and Psychotherapy」(邦題:臨床実践のための質的研究法入門 金剛出版 近刊)のほか、ナラティヴ、カウンセリングの技法、質的研究法などに関する著書や論文は多数にのぼる。特に最近は、ポストモダンの時代におけるカウンセリングや心理療法のあり方について、歴史や文化に関する深い造詣に基づき、積極的に発言している。また、実践家であるとともに質的研究法に深い関心をもち、臨床的な観点から質的研究法を実践している研究者でもある。
John McLeod教授の業績等については、http://www.sagepub.com/authorDetails.nav?contribId=522673 あるいは、personalhomepage: www.counsellingresearch.co.uk をご覧ください。


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