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2006年02月20日(月) 検証・若者の変貌 失われた10年の後に

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浅野智彦(編)『検証・若者の変貌 失われた10年の後に』勁草書房
【目次】
第一章 若者論の失われた十年…………………………浅野智彦
第二章 若者の音楽生活の現在…………………………南田勝也
第三章 めでぃあと若者の今日的つきあい方…………二方龍紀
第四章 若者の友人関係はどうなっているのか………福重 清
第五章 若者のアイデンティティはどう変わったか…岩田 考
第六章 若者の道徳意識は衰退したのか………………浜島幸司
第七章 若者の現在………………………………………浅野智彦
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ご恵送いただきました。

本書は、青少年研究会による縦断的調査の成果のうち、1992年と2002年のデータを用いつつ、この間の10年間におこった若者の変化について実証的データに基づいて論じたもの。この10年の間に若者が否定的に語られることが多いことに注目して、「失われた10年」となぞらえて、若者論にとっても失われた10年であるとしている。例えば、ニート批判、社会的ひきこもり批判、友人関係の希薄化など、若者に対するネガティブな語りに世間の注目が集まっている。これらの言説は、そのわかりやすさのために安易に受容され、そうではないことを示す論はそれほど注目が集まらない現状にある。こうしたネガティブな語りには、安易に<悪者探し>に陥りやすく、また、他でもなく若者の内面へとその原因が帰属されやすい。こうした現状を編者らは「視野狭窄」に陥った状態として懸念する。本書は、そのように狭窄状態に陥った若者への視野を拡げる試みである。

アプローチは違っても、私が著書で狙いとしていたことと本書は通底していると思った。ネガティブで若者をディスパワーする言説というのは、百害あって一利なしだ。いや、仮に意義を認めるとして、それはあくまでも議論の出発点であろう。このような現状がある、私は困っている、私はどうすればいいか、どのような可能性を考えればよいのか、と続けていくための。ネガティブな言説のほとんどは自己目的化している。このような人びとは、問題について語っているようでいて、精緻に語ろうとすればするほど、自分で問題を強固に構築しているということに、はやいこと気づくべきなのだ、と思う。

全てにわたって感想をのべるのも長くなるので、さしあたって第4章の友人関係について。この章の著者の福重氏によれば、現在の若者の友人関係は、一般的に希薄化しているというが、それは必ずしも全般的な傾向とはいえず、友人が果たすべき機能は現在でも保たれているものも多いと述べている。そもそも「希薄化」というとらえ方自体、友人関係を<深いー浅い>という次元でのみ把握しようとすることからくる結論であり、現在の青年の友人関係が必ずしも一軸上で表現できるようなものではなくなっているともいえるということだ。ただし、一般的に青年心理学のなかでいわれていた「友人が成長の際にモデルになる」という見方については必ずしもそれとしては機能していないのではないかということも指摘されている。

若者の友人関係については、私も昨年度ある調査に参加したことがある。そこでも昔であれば「友人」とは言わなかったであろう人物を、友人と呼んでいるらしいことがうかがわれた。例えば、友人であるが「信頼できない」人がいたり、友人であるが「名前をしらない」人がいたり、あるいはこんなにたくさん親友のようにつきあっていけるのだろうかと疑ってしまうような数の友人がいると報告されたりといったように。本章では「自己の内面を開示して人格的な信頼をおく度合いが現象した」ことを友人関係の希薄化であるととらえれば、その数は決して少なくないと指摘されているが、<深いー浅い>におさまらないような、旧来であれば友人と呼ばなかったであろう人が友人として数えられている可能性があるのだろう。

<深いー浅い>にあてはまらない友人関係のなかにも、どんなポジティブな可能性がみてとれるのかということには触れられていないが、こうした調査のいいところは、データという目に見えるものを材料として議論できるところだろう。勝手に印象で語るのは簡単だけれども、ほんとのところどうなん?ということである。その意味で、ネガティブな若者言説と違うのはもちろんのこと、それを感情的に批判して擁護するものでもないというところが、逆に説得力を与えているところだと思う。

本書の冒頭には、著者一同からのお願いとして「みなさんの若者イメージを意識しながら本書を読んでいただきたい。本書を読み終えた後で、そのイメージが少しでも変化していたなら、本書の狙いはある程度達成されたことになる」と書かれている。多くの人が、著者らとデータをはさんだ対話がすすめられればよいと思った。


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