誤算 - 2005年07月01日(金) コンサートは人間がやる限りいつもナマモノなのだけど 本当に何が起こるかわからないもの。 昨日は楽しみにしていた、現代ピアノ界きっての名手ネルソン・フレイレのリサイタルだったのだけど、 彼、とっても不調だったようだ。 私が好きな現役ピアニストの筆頭は、前にも書いたようにマウリツィオ・ポリーニで、 以下、マルタ・アルゲリッチやアンドラーシュ・シフ、クリスティアン・ツィメルマンやエフゲニー・キーシンといった感じだけど、 生理的に「ああ、この人のピアノがナマで聴きたい!」と時折思うのが ポリーニとともにこのフレイレ。 だってCD聴いてもわかるけど、素晴らしい音。 透明で柔らかくて(優しいといった方がいいかも)、 どんな複雑なパッセージも虹のように鮮やかに弾いてのけ、 唸りをあげる重低音から夢のようにキラキラ輝く高音まで思いのままの音を出す ピアニスト・オブ・ピアニストと呼びたくなるような人。 ああ、それなのに。 どうしてああだったんだろう? オール・ショパンのプログラムだったのだけど 最初の「幻想曲」から、オクターヴで駆け上がる難しい箇所は全滅に近く、 「黒鍵」のエチュードは途中でこんがらがって止めちゃうし 「英雄ポロネーズ」もなんだか早く終わりたい、みたいな突っ走り方で 音ハズシまくりで終いにはピアノの弦まで切れてしまった。 (ピアノの弦はどんなに力を入れて弾いても、きちんとしたタッチである限り切れるなんてことはない。切れるのは不自然なタッチで弾いたり、突然変なタイミングで鍵盤を押したりする時くらい) まさかフレイレが、 この巨匠中の巨匠から、 しかも他のピアニストから羨望の眼差しで見られるような最高級の音とテクニックを持った彼から、こんな状態のピアノを聴くハメになろうとは予想もしてませんでした。 病気でもしてるのかな?とも思ったけど いつものように静かに穏やかにニコヤカにお辞儀をしている様子をみていると 全然そんな風ではない。 それにフレイレに促されて慌てて舞台に飛び出した調律師が 7〜8分くらいで新しい弦に張替え (私も長くコンサート関係の仕事をしてるけど、こういうシーンを実際に見たのは初めて) その後弾いたアンコールは素晴らしかった。 曲はバッハの前奏曲、グルックの「精霊の踊り」、あと彼の故国ブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスやモンポウの作品。 これは絶品だった。 赤ちゃんの産毛のような優しくて柔らかくて微妙な音色。 ここでやっと私の知っているフレイレに会えた。 もちろん演奏家は人間で、こんなこともあるんだろうけど (繰り返すけど)フレイレほどの大家から、 世界中の一流の舞台に何十年立ってきて、名声をほしいままにしている巨匠からこんな姿を見せられるとはなあ。 正直ビックリ。 彼は週末にN響定期公演でブラームスの協奏曲を弾くというので それを聴きに行って耳直しだ! あとこの日の前半、 私は久しぶりだったのだけど、演奏中、会場内で補聴器や録音機器を作動させた時に 特有の、微妙なピーピー音が鳴ってしまい、お客さんの一部が騒いでいた。 私にとってもこれは相当に耳障りでツラかったが、 主催者も対応にツラかっただろうな〜、と。 いやいや、他人事ではないっす。 ...
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