英語通訳の極道
Contents<< PrevNext >>


2003年05月19日(月) 通訳者にもデフレ不況の影が

先週は突然の出張通訳依頼が続き、3日連続で新幹線通勤状態となった。おまけに2日目の会議前夜には資料の翻訳も加わり、3日間で睡眠5時間という超過酷なスケジュール。

依頼された翻訳は、絵コンテのキャプションやナレーション、クリエイティブのコピーの英訳。こういう内容は単に情報として正確に訳すという以上に表現にひとひねり必要だ。日本語のコピーと同じインパクトを英語で再現しなくてはいけないので、一筋縄ではいかない。

こういう時、10何年もアメリカのテレビ文化に浸っていた経験が役に立つ。英語の雑誌や新聞、広告を大量に読んできた蓄積がものを言う。いろいろ遊んできたことが無駄にならない。

さて翻訳を始めたものの、前夜も3〜4時間しか寝ていないので、油断すればすぐに意識が落ちてしまう。結局徹夜で仕上げてメールで送ったが、今度は肝心の通訳が心配になる。

頭は起きていてくれるだろうか?ハイの状態が持続すればいいが、いったんテンションが下がってしまうと、思考回路がショートし、眠気のために舌がもつれてろくなことはない。栄養ドリンクを何本か流し込んで、ドクドクと音を立てている心臓に、止まらないでくれよとお願いしながら仕事に向かう。

さて、今回の通訳。1時間の会議一つしかない日があった。そんな短時間にもかかわらず、新幹線代まで払って依頼して下さるクライアントには非常に感謝するが、通訳にかかるコストを考えると申し訳ない気持ちになる時がある。

*    *    *

ここで、少し通訳料金のことを考えてみよう。

私はまだエージェントに登録していないので、仕事はすべて旧知のクライアントか、あるいは知り合いの紹介などを通して直で受けている。通訳料金は世間のエージェントに準じて設定している。

一般に通訳料金は、時間レートではなく、半日とか1日の単位で設定されることが多い。通訳に必要な作業は、実際の通訳に加え、事前準備や打ち合わせ、移動の時間なども考慮しなくてはならないので、30分や1時間といった細切れ単位で仕事を受けると、非常に効率が悪い。そこで、1時間だけの会議でも半日分のチャージとなる。

また、移動に片道1時間以上もかかるような遠方だと出張扱いになり、その場合、最低チャージとして一日分の通訳料金を請求するエージェントが多い。

私も最初はこの慣習に則って料金を設定していた。しかし、だんだんとこれでは続かないと思い始めた。

1時間だけの会議に呼ばれることもあるのだが、それに対して1日分の通訳料金を請求すると、時間給換算では驚くほど高額になる。加えてクライアント側は新幹線等の交通費も支払わなくてはならない。30分だけの会議だと、時間あたりの料金は一桁上がってしまう。

いくら自分はプロの通訳者ですと誇りを持っていても、ビジネス側の立場から考えると、コストが高すぎる。一国の将来を左右するような首脳会議ならいざ知らず、いくら重要でもビジネスの会議である。どの企業に行っても皆必死でコスト削減に取り組んでいる現在、厳しい経済状況に見合った料金体系を提示しないと、早晩上層部からコスト削減命令が出て、1時間程度の会議では通訳に呼んでもらえないだろう。私が企業幹部ならもっと安くやり繰りしようと考える。

ということで、しばらく前に通訳料金を改定して、出張でも半日料金を適用することにした。「半日」とは言っても、出張の場合は往復の移動に時間がかかるので、当日はその仕事以外はできない。つまり、実質的には通訳料金の大幅値下げをした訳だ。コスト意識がなければ、通訳者といえどもビジネスから弾かれてしまう。

実は世間ではさらに値下げ圧力は強いようだ。たとえば、今日のThe Japan Timesの



   ↑クリックするとメッセージが変わります(ランキング投票)
というのがあった。

もちろん、通訳といってもいろんなレベルがある。国際会議やニュース通訳、大企業の経営会議で活躍するベテランから、多少語学が出来るがほとんど通訳訓練もなく、秘書的な仕事の一環として通訳・翻訳も行う語学要員まで。

後者なら、人材派遣で時給2000円前後という仕事はしばしば見かけるが、今日の広告では、「英語ネイティブレベル、通訳経験者、体力の要るお仕事、ハイ・スピードで的確な通訳」という高い条件を設定している。

現在の経済環境では、これがネイティブ並みの英語力を有する通訳者の相場ということになるのだろうか?少し安すぎるような気がするが‥‥。

伝え聞くところでは、相当実力のある通訳者でも、以前なら振り向きもしなかったようなレベルの仕事にたくさん応募しているという。

中国語の場合は、非常に日本語が堪能な中国人が増え、彼らがかなり低いレートでも仕事を受けるので、それに引きずられて日本人中国語通訳者のレートも下がる一方だという嘆きも聞いた。

ビジネスの現場で通訳者として生き残っていくためには、高度な通訳技術・チームプレイなど、ますます付加価値と柔軟性が求められる時代になってきたようだ。


Taro Who? |MAIL

My追加