自分を残して世界が早送りをはじめる テレビのなかのニュースを読み上げるアナウンサーの口調も ご飯の用意をするお母さんも 黒板の内容を書き写す鉛筆の音も わたしの手の動きも いつもより少しだけ早い
世界がわたしの意識だけ置き去りにして 早送りをはじめる 時計の音も 雨の音も そしてふつりと途切れて いつの間にか元の早さへともどっている
早送りされる瞬間は少なくなり 元の早さに戻るまでの時間も少なくなって
いつからか 世界は早送りをされなくなった いつもと同じはやさで なにもかもが正確に進んでいく
あの早送りはなんだったんだろうとふと思う 小さいころのわたしの妄想が激しかった所為なのか それともわたしは成長することが怖かったのか
いつからか誰にも早送りされることなく いつだって正確に時間は進んでいく わたしを連れて容赦なく
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