ひとりびっち・R...びーち

 

 

laundry - 2003年07月10日(木)

 コインランドリーの小さなベンチに座り、缶コーヒーを片手に一服する。
 ここはヒミツの小休止をする場所なのだ。

 ・・・・・・・

 春の日、慣れない職場をへとへとになって出た。
 自分のデスクもなければ、お茶を飲む場所もない。
 もちろん、煙草を一服できる場所もない。
 新学期を迎えて、慌しく仕事に追われている先生方には指示を仰ぐ隙もない。
 だから、さしあたって何からはじめればいいのか、仕事の内容も見えてこない。
 ただただ緊張して、他の人の邪魔にならないように規定の時間を過ごさなければならないというのは、芯から気疲れがした。

 一刻も早く腰をおろして、コーヒーが飲みたい、そして煙草が吸いたい・・。
 そんな切迫した気持ちで駅までの道を歩いていたときに見つけたのが、小さなコインランドリーだった。

 入り口には2台の自動販売機、3坪ほどのスペースに洗濯機が5台と乾燥機が2台ひっそりと並び、中央には小さな白木のテーブルと同じ材質のベンチがある。
 粗大ゴミの中から持ってきたダイニングセットという感じで、安物の黒いプラスチックの灰皿がひとつポツンと置いてあった。
 晴天続きの春の日には利用する人もいないのだろう、打ちっぱなしのセメントの床はかすかに下水の匂いがしていて、カラーボックスに無造作に積まれたマンガ本にもしばらく人に読まれた形跡はなかった。

 誰からも忘れられたような静かな静かな空間。
 オレンジ色の日よけのテント越しに西日が射してうらぶれた感じがいい。
 洗濯をしないのに座りこむのは経営者に申し訳ない気もしたが、緊張と疲労を洗濯しているんだから、この際缶コーヒー1本の売上で勘弁してもらおう・・。
 4月のうちは、そんなことを考えながら、帰り道には逃げ込むようにしてそこのベンチに座りこんでいたのだった。

 しかし、梅雨に入ってコインランドリーが賑わう頃には、そのベンチにへたりこむことも少なくなった。
 はからずも数多くの職場(戦場?)を経験してきたことで、環境に順応するチカラが人一倍ついていたようだ。
 4月の最終週には3つの勤務先それぞれで、自分専用の塹壕(机と椅子)も水場(コーヒーを飲める場所)も確保したし、仕事のペースもつかめるようになっていた。
 まるで各地を転戦するゲリラか傭兵のようだよね、と、友人に話して笑えるようになったのだった。

 ・・・・・・・

 今日は霧のような雨が降っている。
 調子に乗って仕事を引受けすぎた傭兵は、2時間の超過勤務を終えて、ひさびさにランドリーで一服している。
 乾燥機が1台、色とりどりの洗濯物をくるくる回していて、洗剤のいい匂いがする。
 道路の向こう側、雨に濡れて青々とした生垣に、クチナシの花がひとつふたつ、水の中の星のように白く浮かびあがって見える。

 もうすぐ夏休みだ。



...




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