さぶちゃん - 2002年07月29日(月) 月曜日の午前は公民館の囲碁教室に行く。 いつもはさっさと帰宅するのだが、今日は世話人のWさんが近所に新しくできた喫茶店があるというので、みなさんでちょっとお茶していきましょうか、という話になった。 囲碁教室のメンバーは最年長が大正生まれ、私を除いて60〜70歳代の方ばかりである。 公民館から数百メートルしか離れていない喫茶店まで、たっぷり20分かけて歩いていったのだが、中庭にハーブの寄せ植えが並ぶ洒落た喫茶店は定休日だった。 お昼もだいぶまわってお腹も空いていたし、せっかくみんなで出かけてきたし、他の店に行こうということになり、また20分かけて駅前近くまで歩いていった。 通常、駅から公民館までゆっくり歩いても20分の道のりだから、スローモーションで歩いているような感じだ。 最年長のHさんはゆらゆらと立ち上る陽炎のように、暑さでふらついている。 そしてやっとのことで、世話人のWさんが目指していたらしい店に到着したのだが、その店も閉まっていた。 カラオケスナック「さぶちゃん」月曜日定休 たしかに、月曜日のランチには向いてない店構えだ。 Wさんが何を思ってここまで来たのかはわからないが、私は内心「休みでよかった」と思ったのである。 が、しかし、休みのはずの「さぶちゃん」のドアが開いた。 店の前をうろうろしていたWさんが、表で掃除をしていた店のマスターと話をまとめていたらしく、一同、否応なく「さぶちゃん」に招き入れられたのである。 いまひとつ納得できなかったのだが、世話人さんが決めたことだし、反対するわけにもいかない。 くりかえすが、 カラオケスナック「さぶちゃん」月曜日定休 である。 店内の壁という壁が、びっしり「さぶちゃん=北島三郎」のスチール写真で埋まっている。 しかも、よーく見ると、さぶちゃんに混じって数枚、マスターらしき人物が熱唱している写真も飾られている。 窓のない店内には前夜の宴会のつまみが乗った皿や、飲み残しの酒が入ったグラスがそのままになっていて、花見の時の上野公園みたいな匂いが充満している。 最新鋭らしいカラオケの機械のスイッチが入れられ、電話帳のようなものとメモ用紙とボールペンのセットが運ばれて来た。 これはマズい、たぶんヤバい、絶対ボラれる。 「私、帰ります!」 と、喉まで出かかったのだが、最年少、若輩の身でわがままを言うのも気がひけて、赤いモールのソファーの端におとなしく座ったが、じんわりと冷や汗が滲んでいた。 一方、ご老人たちといえば、 「あら〜、ホントにさぶちゃんなのね〜」 だの、 「花も嵐もふ〜みこ〜え〜て〜」 だの、 「こういうのも人生勉強かしら」 だの、 「いや、若い頃はけっこう遊びましたが、わっはっは」 だの、 のんき爆発、老人力全開である。 あげくのはてに、食べ物が出ないと聞くと、近くのコンビニでサンドイッチを買ってきて「持ち込み」してもいいかと言い出す始末。 強面のマスター(眉毛剃り込み)も、あっけにとられて思わずOKを出す。 水商売パワーvs老人力・・・まるっきり噛み合っていないが、力としては拮抗しているというか、そこには世にも不思議な世界が展開していた。 マスターが用意したカラオケセットには見向きもせず、アイスコーヒーや紅茶を1杯ずつ注文して、コンビニのサンドイッチを食べ、買ってきたポテトチップスを分ける皿まで出させた。 顔を引きつらせながら、「ウチは普通の喫茶店じゃないので、お水は出さないんですよ」と言うママさんを押し切って、「お冷や」までサービスさせた。 老人力あくまで優勢である。 結局、メニューに500円と書いてあるソフトドリンクの代金を払って店を出ようとした我々に対して、終始不機嫌だったママさんが、「セット料金でお一人様1000円です!」と、ちょっぴり水商売の意地を見せたところで、奇妙なランチは幕となった。 やれやれ、何と何がセットなのかはわからないが、1000円で済んで良かった。 1杯1000円のアイスコーヒーは痛い出費だが、不思議な「異種格闘技」を見学できたことを考えると、そんなに惜しくない気もする。 ま、一度見れば充分だし、次の機会も同席したいとは決して思わないけれど・・。 ・・・・・・・ ちなみにWさんだが、「さぶちゃん」の常連でもマスターの知り合いでもなかったらしい。 後でそれとなく尋ねてみたところ、単純に喫茶店みたいなところがあったなぁ・・という認識だったというからびっくりである。 ...
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