あなたに背を向けて目を閉じる。 背中に感じる体温が、温かくて心地良い。 別に何か不満だったわけではなくて、 ただその体勢が楽だっただけ。
しばらくして、 追いかけるように寺島が後ろから来る。 更に温かくなって、そして安心する。 最近、こんなことが増えた。
きっと前だったら泣けていたのだ。 幸せだからじゃなく、何かが悲しくて。 だけど今のあたしは。 疑わなくていい幸せの中にいて。
信じない、信じられない、 というのはただの保身だ。 事実に惑わされず信じぬく。 それが愛だ。
そんな、本の中のセリフが、 かなりわかってしまう自分ってどうだろうか、とか、 考えてしまったけれど。
もう既にあたしは、 信じられないと言いつつ信じてしまう沼に、 とっぷり浸かっている気がする。
心が決めるのだ。 寺島を信じる、と。
何を信じているのか、自分でもよくはわからないし、 かろうじて言葉に出来るのは、 今まで一緒にいた時間とか、 寺島の態度とか?
寺島の背は明らかに伸びて、 抱き締めてもらうと、すっぽりとあたしの顔が埋まる。 高校生の頃はこの辺りだったよ、と、 寺島が首の辺りを手で示して笑って。 「それだけ長く一緒にいるのね」 と、弱弱しくもあたしは声に出せた。
怖かったんだ。 あの日のように、過去を否定されるのが。 寺島は、聞こえなかったのか、何も言わなかった。
でももうあたしは怖がらない。 陽ちゃんは、否定なんかしない。 忘れてもない。
うん。 大丈夫。
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