午前3時。
それは、あたしの時間。 いつも1人で、キーボードを叩いている。 または、秘密の時間として心を癒している。
携帯が鳴るのは遅くても2時頃まで。 だからあたしは安心して静かに、 隣に眠る猫を撫でながら、 マウスを動かす。
あたしの夜はいつもこうで、 昨夜もそうあるはずだった。
が、昨夜は。 とても不似合いな着信音が鳴った。 時間を確認する。
…午前3時10分。 パソコンの時計も合ってる。
とりあえずかけ直してみる。 出た相手は、自分からかけてきたわりに、 とても眠そうな声をしていた。
「起きてたの?」
「起きてたよ」
「何してたの?」
「パソコン」
「ふ〜ん」
「陽ちゃんは何してたの?」
「眠れなくて…」
鳴ったのは、 寺島専用の着信音だった。
やがて、 眠い声ではなくて、悩む声だと知った。 寂しがる声だと知った。
寺島の寂しさが、あたしで埋まらないのは知ってる。 だけどそれを寺島が叫ぶとき、 聞こえる位置にいてよかったと思った。 独りだと嘆くから、 そんなことないと言ってやれる位置でよかったと思った。
寺島が信じるかどうかは別だけれど、 信じなくても、 信じるまで言ってあげたい。
独りじゃないよ。 あなたには血の繋がったご両親がいる。 血の繋がった兄弟がいる。
あたしがいる。 藤原や茶原や竜崎君がいる。
あなたの大学にも友達がいる。
後は、あなたが信じるだけ。 信じて、心を開くだけ。
皆きっと、受けとめてくれるから。 心配、しないで。
|