あたしの幸せのハードルは、まだまだ、 高すぎますか。
毛布1枚を共有して、 けれど敷布団は、寺島が占有して。 あたしは体の半分が、床。
顔も向こうを向いて眠る寺島が、憎たらしかった。 少し手を伸ばして、髪を撫でることしか出来なかった。
キスもなければ、抱擁もなかったけど。 頼めるほど、甘え上手じゃない。 頼むものじゃない、なんて、あたしは考えが古いのかな。
『寝顔は見せないよ』
なんて言ってた頃からしたら。 寺島は大分、素顔を見せてくれるようになった。
初めて寝顔を見たのは、もうずっと前だけど。 見るたびに、欠かさずあたしは、 見せないよと言った寺島を思い出している。
こっちを向いて欲しいとか。 腕の中に入れて欲しいとか。 キスして欲しいとか。 やっぱり、我が儘かなぁ。
好きな人が生きていて、隣で眠っている。 こんなに大きな幸せを感じずに、 そんなことを思うなんて、おこがましいのだ。
幸せを感じるから、 あたしは、それを無視できない。 「この人が生きている」 それ以上に、幸せなことなどありはしない。
だからあたしは昔、寺島にきつく抱き締められるたび。 腕の力と、心臓の音が幸せで。 泣いていた。
「好きな人が、隣に寝てるだけで…
幸せなんだよねぇ…」
寝ているとわかっていても、何となく、 怖かったから。 ポソポソと、聞こえないようにつぶやいてみた。
「ねぇ…?陽ちゃん…」
そして手を伸ばして、髪に触れようとしたら、 寺島の目がぱちりと開いた。
慌てて手をひっこめる。
「何か言った?」
「何にも言ってないよ」
「うそ。言ってたよ、幸せがどーたら…」
「何でもないよ」
「言ってよ」
「独り言なんだから聞かなくていいよ」
そんなかっこいいことを言ったくせに、 実際あたしが言いなおすと、 寝たふりをしてた。
いいよ、慣れてるよ。 その後あたしは、寺島の肩にしがみついて、 寺島に起こされるまで、眠った。
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