under one umbrella

2004年12月04日(土) それ以上に


あたしの幸せのハードルは、まだまだ、
高すぎますか。




毛布1枚を共有して、
けれど敷布団は、寺島が占有して。
あたしは体の半分が、床。

顔も向こうを向いて眠る寺島が、憎たらしかった。
少し手を伸ばして、髪を撫でることしか出来なかった。


キスもなければ、抱擁もなかったけど。
頼めるほど、甘え上手じゃない。
頼むものじゃない、なんて、あたしは考えが古いのかな。





『寝顔は見せないよ』

なんて言ってた頃からしたら。
寺島は大分、素顔を見せてくれるようになった。

初めて寝顔を見たのは、もうずっと前だけど。
見るたびに、欠かさずあたしは、
見せないよと言った寺島を思い出している。




こっちを向いて欲しいとか。
腕の中に入れて欲しいとか。
キスして欲しいとか。
やっぱり、我が儘かなぁ。


好きな人が生きていて、隣で眠っている。
こんなに大きな幸せを感じずに、
そんなことを思うなんて、おこがましいのだ。




幸せを感じるから、
あたしは、それを無視できない。
「この人が生きている」
それ以上に、幸せなことなどありはしない。



だからあたしは昔、寺島にきつく抱き締められるたび。
腕の力と、心臓の音が幸せで。
泣いていた。





「好きな人が、隣に寝てるだけで…

幸せなんだよねぇ…」



寝ているとわかっていても、何となく、
怖かったから。
ポソポソと、聞こえないようにつぶやいてみた。



「ねぇ…?陽ちゃん…」



そして手を伸ばして、髪に触れようとしたら、
寺島の目がぱちりと開いた。

慌てて手をひっこめる。



「何か言った?」


「何にも言ってないよ」


「うそ。言ってたよ、幸せがどーたら…」


「何でもないよ」


「言ってよ」


「独り言なんだから聞かなくていいよ」



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そんなかっこいいことを言ったくせに、
実際あたしが言いなおすと、
寝たふりをしてた。



いいよ、慣れてるよ。
その後あたしは、寺島の肩にしがみついて、
寺島に起こされるまで、眠った。



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