抱かれた後の気だるい体で、 重力に身を任すように坂を下る。 映画を見た後、流れるように、 寺島はあたしの部屋にいた。
何の言葉もなく、何の誘いもなく、 ただ、
「お父さん、何時に帰ってくる?」
という質問と、その答えだけで。 部屋に来ることは決まっている。
会話上では、何も決めていないのに、 進む道が何故かあたしの家の方向であったり、 寺島があたしの家の前に自転車を止めたり。 本当なら、「部屋、上がる?」とかの言葉があるべき場面なのに、 抱き締めたい欲求を我慢したくなかったあたしは、 それをとばした。
そう、抱き締めたかった。 その感触で、寺島を確かめたかった。 一週間、ずっとずっと。
でも、抱き締めても、寺島はそこにはいなかった。 いつの日か強く抱き返してくれた、その「何か」はなかった。 確実な瞬間は、寺島があたしの中にいたときだけだった。 確実だから、愛おしかった。
今日は、水曜日。 前までは、メールが頻繁に行き交って、電話もして。 先々週の水曜日は、盛り上がりすぎたから、 次の日の木曜日学校をサボってまで、逢ってた。
先週はそれがなくて、不安になった。 今日はあたしからもせずに。
あたし達って本当。 水のように姿を変える。 短時間に、くるくると。
「気が向いたらね」って、 抑揚のない声であなたが、曖昧な未来をくれた。 それがどうなるかなんて、 今のあたしは、考えたくもない。
けれど、心のどこかでは、 寺島の心を覗く術をずっと探している。
寺島の行動にはもうさすがについていけないと、 あたしは今思っているけれど、 一番疲れたのは、自分の中のギャップ。 こんなにボロボロでも、あたしは、 寺島に触れたい。 逢いたい。 信じたい。
だから乗り越えろ。 独りじゃ、ないだろう。
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