under one umbrella

2004年07月19日(月) 言葉たち。


まったく、あたしというのは。
語彙力がないのだ、要するに。
言葉にならないなんて、言い訳にもなりやしない。



深夜、あたしだけで寺島の家に行くなんて初めてだった。
砂利の音を立てないように歩くのは、不謹慎だけど楽しかった。
それでも、立てすぎって怒られたけど。

部屋に入れば、
服の固まりが2つあって。
たたむ物かと思ったら、全部脱いだ物だって言うから。
思わず笑ってしまった。

並べてある、見慣れないタイトルのCDを眺めていると、
腕をつかまれて引き寄せられた。
見上げると、変な意味でなく「飢えた」寺島が居た。
「飢え」を少しでも忘れたくてあたしを抱くのかと、
今更に、その瞬間気づいた。





じっとあたしの顔を見ながら、何を思っていたんだろう。
慣れてなくて、恥ずかしくて、目線をそらしてしまった。






乾ききった顔でつぶやかれた「うざい」は、
重たくて、上手く受け止めてあげることが出来なかった。
「全部、やめてしまいたい」と、寺島は吐いた。
こぶしをベッドにぶつけ始めたときは、少しだけ驚いた。
脇の壁にぶつけた後、自嘲気味に微笑みながら、
「帰る?」と、私に聞いた。
「このままだと、俺の八つ当たりを見なきゃいけない」
「そんなの平気だけど…」
「君にじゃなくてさ」
わかってた、けど。
伝える言葉を知らなかった。




どんな言葉も、無力に思えて。
簡単に口にすることが出来なくて。
それでも、何か言いたくて。
「したくないときはしなくたって、いいんだよ」
帰り際に、そんな、
寺島から聞けば根拠のないこと、言ってしまった。
まったくもって説明が足りない。

おやすみ、と言って歩き出した2歩目に、
ただ傍にいるだけでよかったのかもしれない、とも思った。
どうして『大丈夫』って、言えなかったんだろう。

あたしは髪の毛をぐしゃぐしゃと崩した。




言葉を知らないのは、
母から教えられたからだろう。
あたしが導き出した答えでは、ないからだ。


言葉に出来ないことを言葉に出来る力が欲しくて。


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