駅から駐輪場へ向かっているとき、 寺島から電話がかかってきた。
いつもそうだから責めることはできないけれど、 「今忙しい?」の言葉もなく寺島は話を始めた。
しかし「いつも」というのは、深夜11時を過ぎた頃の話。 忙しいことなんてほとんどないとわかっているからの話。 その日は夜の8時くらいだった。
話はいつものように他愛無くて、世間話だった。 聞くのは楽しいから、別に構わなかった。 片手で、停めていた自転車を動かすのが難しかったけれど。
バイトの話になった。 家庭教師に登録すると、寺島は話した。 以前、中学の先生から、 家庭教師の時給は2000円くらいだと聞いたことがあった。 いいね〜、と羨ましがると、 「お前のとこの倍以上だよな〜♪」 と、得意げに言われた。
私は、結婚式場で土日のバイトをしている。 時給は700円で、 頭を使わない代わりキツイし、 いくら使わないと言っても、効率的な動きが要求される。 サービス業だから、ちょっとした動作にもうるさい。 立ちっぱなしで9時間とか働くから、 最初の頃はパンプスに慣れなくて、小指が膿んだりしていた。
ちょうどその日、私は、 バイトをやめようかどうか悩んでいた。 家から遠かったり、 上司から「向いてないんじゃないか」と遠まわしに言われたり、 その遠まわし加減が苛ついたりしていたのだった。 だから、寺島の発言に、いつも以上に反応した。 けれど、寺島は気づかず、喋り続ける。
「週一のカテキョでお前らの倍以上稼いでやるよ〜♪」 そのハイテンションに、何より苛々した。 「…わかったから」 「あ、怒ってる?」 「…怒ってない」 早く切りたかった。 自転車も重たかった。 早く帰りたかった。 「怒ってる…」 「…怒ってないったら」 本気で怒らせてるなんて気づいていないくせに、そんなことを言わないで。 「じゃ、その自慢話したかっただけだから…」 それを認めないで。 せめて違うと言って。 「じゃぁ」 と切ろうとすると、まだ何か言っているのが聞こえて、 携帯を耳に当てると、 「そんなに怒るなよ〜…」 とかなんとか言っているのが聞こえた。
私の足の痛みを知らないくせに、怒るなと言うの? 今私がどこにいるか、何をしているのかも聞かずに、 自分の話ばかりして、 しかもただの自慢話だと判っていると、堂々と。
あなたは言ったのに。つい夕べの電話で。 「人の愚痴と自慢話程つまらないものはない」と。
「怒らない人がいる?」 そう言い捨てて、電話を切った。 仕事をバカにされたことが悔しくて、涙が出た。 何かが苦しかった。 何なのかわからなかった。
謝れば消えるのかと、何度もメールを打とうとした。 けれど打たなかった。 どちらが悪いかなんて、きっと寺島もわかっているはずで。 寺島を信じようと思った。
苦しかったのは、そのせいだった。
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メールのレス、遅れていてごめんなさい。 もう少し、待っていただけると嬉しいです。
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