諦める。 あなたの愛を、諦める。 あたしのなかのあなたと、 あなたのなかのあたしを守るために。 それだけは諦めたくないから、 その決心は、もうずっと前についてる。
だけど、どうしたら、あたしをあたしらしく、 あなたをあなたらしく、お互いのなかに残せるのか、 それだけがあたしにはわからない。 お互いのなかのお互いを変えたくないというのは、 あたしだけのわがままかしら。
寺島の来訪を、あたしはまだ拒めずにいる。 幸子に叱られたし、自分でもおかしいと思うのに。 寺島のことを今どう思っているのか、正直よくはわからない。 「好き」という言葉も、「愛してる」という言葉も、 いまいちぴんとこない。 寺島と、寺島の学校の話をしたり、あたしが聞いた噂を話したり、 テニスの話を聞いたり、読んだ本の話をしたり。 名前は知らないあの人の話をしたり。 そういう時間は、わりと「好き」だと思うけれども。
寺島と逢うたびに、あたしの気持ちが揺らぐ。 変わっていく。 途惑う。 わからなくなっていく。 あたしが何をしたいのか。
そうやって迷ううち、 あたしのなかで、寺島はどんどん最悪に近づいていって、 寺島のなかで、あたしはどんどん都合のいい存在に近づいていく。 これじゃあ、いつの日にか。 諦めたくなかったはずのものが、諦めてないのに消えてしまう。
おかしいなぁ。
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