来ないと思っていた。 来てもきっとまともに相手できないと思っていた。 泣いてしまって、困らせるんじゃないかと思っていた。
だけど現実には。 いつもどおりな自分がいる。 いつもどおりの寺島と、笑い合う。 何だか不思議で。でも楽で。 心地良かった。 こんな時間って。久しぶりじゃないかな。 ていうかあたしは。 こんな時間が欲しくて付き合っていたんじゃなかったのかな。
甘えるような寺島に恨負けして。 寺島が望むだけくっついていた。 体が離れているときは、手をつないでいた。 ちょっと近づけたら、寺島が指をからめるから。 ほどくことなんて、出来なくて。
頬へのキスは、ずっと避け続けた。 「恋人にしかされない主義なの」 でも全てをかわすなんて出来なかった。 だから仕返しのつもりでしてやったら、 「控え目だね」 「…。嫌がるかなと思って」 「何でだよ」 こっちが聞きたいよ。 あたし達、ちゃんと別れたのに。 今度はきれいに別れられたと思ったのに。 どうしてまた、あなたの隣にいるんだろう。
「好きな女が出来ても。また純子の傍にいるんだな」 「情けない人ね」 「否定はしないよ」 喜んでいいのか何なのか、ちょっとわからずにごまかした。 どちらを選ぶのよ、と聞けばいい場面のような気もするけど。 選ばれなかったら悲しいから、聞かなかったんだと思う。
寺島がふっと笑うのを感じた。 理由を聞いたら、 「純子の傍だからか、今俺無防備だなと思って」 前に…寺島は自己分析で、警戒心が強いことを言っていた。 気にしていたようだったから、その言葉は嬉しかった。 だけど…。 「陽ちゃんの一番近くにいるのはその人よ。 近くにいる人には勝てない」 「そうかな。そりゃ距離的には近いけど…嫌われてるみたいだし」 「陽ちゃんが体育祭サボるからでしょ」 「…」 何だか気まずい気がして、背を向けた。 そのまま学校の男子の話をしてるうちに、髪の毛を触る手に気づいて、振り向いた。 その勢いで腕の中にいれられ、また指がからんだ。
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