under one umbrella

2003年09月05日(金) 「…」


前々日からの続きです。
それと今日は…性的な表現が含まれます。

***


「こっち来て」
と言われて、自転車の向こう側へ行った後。
寺島の手は、私の腰か胸にあった。
おでこをくっつけられて。何回か頬にキスをされた。
我慢できずに声を出してしまう度、どんどん向こうのペースになってゆく。
「恋人じゃなきゃ、ホントはこんな声聞けないんだよ?
贅沢」
そう言うと、寺島は音を立てて頬にキスをした。
不思議そうに見ると、
「恋人じゃなきゃ、こんなキスもらえないでしょ」
「あら…あえぎ声なんか好きじゃなくても出るわ。
キスは好きじゃなきゃ出来ないと思うけど」
なんとかペースを取り戻す。
そんなキスは苦痛でしかなかった。
私は、恋人にしかキスされたくない。
だってこの人。
私じゃない他の人を好きなのに。
そう思うと少しだけ、涙が浮かんだ。


接近したままの真面目な話。
話が進むにつれ、寺島の手はおとなしくなっていった。
「強くなったな」
「陽ちゃんを愛して強くなったの」
私は少しだけ、寺島を抱く手に力をこめた。


不意に、寺島が私の額にキスをした。
「えっ?」
「強い純子に、尊敬のキスだよ」
「…」
これだけ。
私が堂々ともらえるものは、このキスだけ。
私がときめくのも、ドキドキするのも、
心底嬉しいのも、このキスだけ。
ドキドキする度に。
私はまだ、寺島に恋しているのかなと思う。


私を抱き締めたまま、
「おやすみ」
と寺島が言い、時間が来たのを知って、私は体を離した。
寺島が、つないでいた私の手を離すのに間があったなんて、
下手には信じたくない。
「強くなったでしょう」
髪を上げながら私は言った。
「ああ…」
「ふふふ」
「…俺が弱くなったのかも知れない」
「えっ」
「…」
自転車をこいで行く寺島に、大急ぎでおやすみと叫んだ。
複雑な心境ではあったけれど。
哀しくは…なかった。





話題的には、まだ続きます。



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