風太郎ワールド
先日、第3回世界水フォーラムが、京都、大阪、滋賀で開催された。それに合わせて京都のNGOが、水の大切さを訴える目的で「蛇口をひねらない日」を設ける計画をしていると、新聞が報道していた。
その日は、水道の蛇口をひねらずに、前日までに汲みおいた水を使うという。もちろん、洗濯も、風呂も、トイレも。
この記事を読んで、阪神大震災の時のことを思い出した。
地震が起こった当時アメリカにいた私は、被災地に住んでいる家族は幸い全員無事だったものの、居ても立ってもいられず、いそいで帰国。伊丹から神戸まで、想像を絶する被害の様子を自分の目に焼き付けながら、ボランティアなどをしていた。
生活インフラ機能が麻痺した被災地を歩いていて、一番困ったのはトイレと飲み水だった。
一日歩き回ったある夕方。懐かしいJR住吉駅の前に立った。駅舎は無残に倒壊していた。その前に一軒の喫茶店。中に人がいる。営業しているようだ。
冬の寒さの中、丸一日歩いて冷えた体を暖め、ついでにトイレにも行きたい。中に入って、コーヒーを頼んだ。
その店では、洗い物を出さないように、すべて紙コップを使っていた。水も、リクエストした人にしか出さない。もちろん、おしぼりもない。
さて、トイレを借りたのはいいが、水が出ない。どこを押しても引いても、何も出ない。困った。
うろうろ周りを見渡しても、分からない。仕方ない。それをそのままにしてトイレを出、マスターを探して、そっと尋ねる。すると、マスター、悪びれた様子もなく、
「あー、水道が復活していないのでね、これですよ」
そう言うと、
みごとに流した。そして、こちらを見て、ニッとほほ笑む。
水も電気もないのに、いつもと変わりなく営業しているマスターの笑顔が、とても頼もしかった。
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