風太郎ワールド
2003年03月14日(金) |
ミルク色の壁に囲まれて |
「ミルク色の部屋の中で、子供たちがお祈りをしています。小さな手を合わせて、いっしょうけんめい、お祈りをしています。‥‥」
これを読んだ瞬間、世界がひっくり返ったような衝撃を受けた。小学校の卒業文集の一文の出だし。書いたのは、私が心の片隅で、密かに恋いこがれていた女の子。
実は、
の風景だ。
相当昔のことなので、一字一句まで正確には覚えていない。それでも、「ミルク色」、「小さな手を合わせて」、「お祈り」という表現は、鮮明に記憶に残っている。とても小学生の書いた文章とは思えなかった。 同じく卒業生の私はといえば、原稿締切前夜になっても、何も書けずに苦しんでいた。いくら頭を絞っても、アイデアさえ浮かばない。無理にペンを取ってみたが、出てくるのは、下手くそ、陳腐、箸にも棒にもかからない、駄文ばかり。
規則的に時を刻む壁時計が、イライラを募らせた。夜も更ける。真っ白い原稿用紙を前に、ほとんど絶望的な状態に陥っていた。真夜中過ぎ、見かねた親父がアドバイスをする。
「何も書けない、ということを書けばええやないか。」
なるほど。そうして、私は書いた。一編の詩を。 詩が書けない
チクタク、チクタク
時計が鳴っている
いくら頭をひねっても
何も浮かんで出てこない
外は真っ暗
締め切りは迫る
‥‥‥
これを平凡と言わずして、何を平凡と言おう。何とか形のあるものを、卒業文集に載せたものの、才能の片鱗すら感じられない。稚文を越えて、恥文だった。
それに比べて‥‥「ミルク色の部屋」かあ。
よく思いつくなあ、そういう形容詞。子供たちの手が小さいのは当たり前なんだが、子供の純真、一途な雰囲気が滲み出ていた。
いったいこの違いは何なのだ。
この卒業文集をきっかけに、私の将来の選択肢から、文学の道が消えて行った。
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