風太郎ワールド
2003年03月01日(土) |
ジョシコウビョウの罠 |
大学に通っていた頃、クラブの関係で他大学の多くの学生と交流があった。その中のひとりが、一年先輩だったK女学院のOさん。
ややポッチャリ度が高く、飛び抜けた美人というわけでもないが、人一倍エネルギーに溢れ、いつも次の目標に向かって動いている、躍動感があった。頭脳も明晰で人なつっこい。多くの男子学生もまとめて引っ張っていくようなリーダー、というかボス的存在だった。とても魅力的な女性で、私は心から尊敬し憬れていた。
彼女とは何らの男女関係もなかったが、どういうわけか、よく可愛がってもらった。たぶん、おとなしい後輩の面倒を見ずにはおれなかったのだろう。いろいろな集まりに連れて行ってもらい、おもしろい人たちを紹介してくれた。
K女学院は、中学から大学まで一貫のお嬢様学校だが、Oさんは公立高校から受験して大学に来た、少数派だった。
その彼女がある日、クラブの大学間交流合宿の打ち上げパーティーで、ボソッともらした。
「ジョシコウビョウっていうのがあるのよ」 「えっ、何ですかそれ?女性特有の病気ですか?」
「ううん。あのね、中学校からずっと女子校で来た人たち。男女共学を経験していないでしょ?」 「たしかに」
「思春期に、異性がいない環境で成長しているでしょ。だから、男性に対して、いつまでもウブなのよ。少女マンガに出てくる、夢物語のような幻想が抜けないの」 「それがいけないんですか?いいじゃないですか、可愛らしいと思うなあ」
「それがね、女子校病の女の子って、困っちゃうのよ」 「困る?」
「男の人に出会うたびに、ときめいて、すぐ恋しちゃうの」 「恋するって‥‥あたりまえでしょ、年頃なんだから」
「それがあ。私なんかは、共学で、男子学生なんかいっぱい見てるから。男の子が周りにいても普通なのよ。動じないのよ。彼らの成長期に付き合ってきてるでしょ、毎日教室で。あっ、コイツ最近声変わりしたなあとか」 「はぁ」
「もちろん、女の子だからみんな、男の子の目は気にするよ。でも、別に男の子はめずらしくないのよ。だれかれとなく恋に落ちるってことはないのよ。免疫があるの」 「ふ〜ん。そんなものなんですか」
「ところが、女子校病の女の子達ときたら、ちょっと素敵な男性が現れるたびに、それはもう、すぐに恋に落ちちゃって。心をセーブすることを知らないから、何も手につかなくなるの。上の空。悩んで、苦しんで、落ち込んで、そしてこっちに相談に来るのよ」 「‥‥」
「でもね。いくら話してもダメなの。まったく免疫がないのに、バイキンがうじゃうじゃいる世界に、突然飛び込んでしまったようなもので。慰めても、諭しても、何をしてもだめ。自然に免疫がつくまで待つしかないの。‥‥はぁ〜あ。彼女達も大変だと思うわあ」 私はじっと聞いていた。
「女子校病」 まったく新しい真実を、突然目の前に提示され、閃くものがあった。女子校病があるなら、男子校病もあるのではないか。中高一貫の男子校を卒業した私は、そう考えた。
そういえば、Oさんが説明した女子校病患者の症状は、程度の差こそあれ、自分にも思い当たるフシがある。むやみに女性を美化し過ぎているかもしれない。それが不必要に自分を苦しめ、女性を息苦しくしているかもしれない。考えれば考えるほど‥‥その通りだった。アンドレ・ジイドの「狭き門」の世界に嵌まり込んでいるかもしれない。
何とかしなければ。女の子に出会うたびに、恋に落ちもがき苦しんでいては、心が持たない。体が持たない。男と女が住む普通の世界で、普通に生きていくことができない。
「先輩、ぜひその、女子校病とやらを克服する方法を教えてください」 「どうして‥‥あなたが?」 先輩は怪訝そうな目を向けた。
「あの‥‥その‥‥もしかすると、ぼくは‥‥‥男子校病じゃないかと」 「ダンシコウビョウ?‥‥なるほど。そういえば、あなたも共学出身じゃなかったわね」
「早く何とかしなければ、ぼくも、不幸な青春を送るんじゃないかと、思うんです」 Oさんは私の顔をじっと見つめて、は〜ぁ、と小さくため息をついた。 「ないのよ。残念ながら。そんな方法って」
「じゃ、どうすれば、ぼくは救われるんですか?」 「‥‥時間ね」
「えっ?」 「時間が解きほぐしてくれるわ。いろいろ経験して――でも慎重にね――失敗もして、壁に突き当たって、絶望して、また前進して‥‥。そのうち、ああ、いま自分の心はこの辺りにあるんだっていう、そういう感覚が分かってくるのよ」
「ようするに、体験から習えと?」 「やっぱり、それが基本かしら」
「何か、もっとできることはないんですか?そのお、失敗をする前に。女性の実態を知るために、本を読んだり、修行したり。何かできること‥‥ないんですか?」 「ごめんなさい。私にできることは‥‥ここまで」
「‥‥」
その後、私がダンシコウビョウを克服できたかって? ご静聴、ありがとうございました m(_ _)m
◆◆◆ このコラムをはじめて一週間。 内容にまったく一貫性がないという指摘がある。
おっしゃるとおりです。^^;; つまり、心に思いつくままの雑文ということで。 しばらくはこういうゴッタ煮状態ですが、よろしければご愛読ください。
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