ぼんのう
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2003年08月24日(日) 富士山最終日

朝3時にたたき起こされた。
この時間に起き、暗闇の中無理矢理登れば、山頂でご来光を仰ぐ事ができるというのだが、生憎我輩の背中が言う事を効かない。煎餅布団ならまだ救いはあるが、綿さえも石のように硬くなっていたため、背中全体に鈍い痛みが走る。幸い、昨晩のうちに葛根湯を服用したおかげか、高山病特有の頭痛はなかったが、背中の痛みで呼吸が別の意味で苦しい。
前日に予約した朝食をもらう。ベトベトしたご飯に佃煮が乗っかっているだけの内容であったが、空腹にはご馳走であった。
元気あるかないかは別として、山頂を目指す人が列を成していた。薄暗い中であるが、山頂に向かって、細長い光の列が出来上がっていた。ちっとも動かないところを見ると、相当の渋滞のようだ。我輩は結局、もう一眠りをして、山小屋でご来光を見ることにした。
布団に入ると、突然猛烈な便意を感じる。そのままトイレに直行して用をたしていたら、外から歓声が…でっかいクソをひねり出している間に、ご来光となったみたいだ。いやあ…我輩らしいと言えば、我輩らしいけどな…。
外に出ると、新しい太陽の光が、火山灰で痛んだ目によく染みた。富士山はこのご来光を仰ぐことに意味があるとよく言われているが、我輩として山頂までの残り距離の方がよほど重要な意味に感じられた。しかし晴れていてよかった…。

4時半過ぎに出発する。
登りよりも下りの人が多く、凄まじい渋滞となっていた。
富士山はやはり、登山を愛する人の為の山ではなく、過酷な環境にある観光地でしかない。登山での基本的なルールとして、登り優先のはずだが、下りの人が我が物顔で、浮石を蹴りながら降りてくる。危ないと思ったことは数回あったが、酸欠でいつもの調子はでないので、黙認。あと、タバコの吸殻を当然の権利かのように投げ捨てる連中も多かったな。
しかしこの渋滞、別の意味で助かった。山頂近くなると、3歩歩いても息切れがする。渋滞していることで、誰の遠慮もなく、堂々と休む事ができる。これはありがたい。

浅間大社奥宮前到着。日の出を見終わった人でごった返していた。軽く水を飲み、剣が峰まで歩みを進める。直前の急坂に足を滑らせながらも何とか登頂。お鉢を逆回りする人は、この坂に恐怖していた。あちこちで悲鳴が聞こえた。ここで異常発生…山頂まで行列。
山頂の印で記念写真を撮る為に並んでいるというのだ。なんと待ち時間は約1時間。諦める人がゾロゾロ…でもな、ここまで登って、証拠写真を撮らなければ意味はないんだよな。

会社でも今ごろ賭けているだろう。

 登頂する    500,000倍
 途中で挫折する    20倍
 高山病で死ぬ     10倍
 転落して死ぬ     5倍
 登らない       2倍


…「くのいち取り調べ」とかの企画を強行した人間だよ?我輩は?
「やる!」と言ったらやる人間よ!
邪魔する人間がいたら、殴るからな!

一緒に並んでいたうら若き女性と話す。彼女は友人達と来ていたが、全員途中で離脱して、自分一人でここまで来たとのこと。普段から水泳で体を鍛えていたおかげとも言っていた。うん、素敵だ。惚れたぞ、畜生。だが、ここは神聖な山の上。お互い写真を撮りっこして、別れた。

そのままお鉢回りをする。誰もこない金明水の井戸を開けようと思ったが、空気が薄いせいで、重石を動かすことができなかった。河口湖口の山頂付近はゴミの山。吸殻、空き缶、空きペットボトル、周囲からうるさい音楽が鳴り響き、山をバカにしきった連中が跋扈していた。…世界遺産にする前に、登山者を制限したら?…と思ってしまうな。

浅間神社奥宮でスコットランドの旗を翻し、OFF会会場を開く。
お一人様のみ登場。鉄人並の体力で、マラソン姿で登場。
色々書きたいけど、割愛。今度下界で飲みましょう♪


さて愈々下山。
御殿場口まで出て、下り始める。
ザレており、足を幾度ともなく滑らせるが、おおむね順調。途中の山小屋で甘酒を飲み、いよいよ砂走りまで…。

誰もいないんですけど?

下りる。
只管下りる。
まだまだ下りる。

空に飛ぶ鳥なく(マジ!)
下に生える草木もなし(大マジ!)

我輩は今
あの世とこの世の狭間にいる。
聞こえてくるのは、砂が舞い上がる音。
立ち止まれば、風はなく、完全に死が支配する世界。
この砂走りにいるのは、我輩一人だけ。
来世と現世に迷い込んだ魂。


…あれ?
でも、全然怖くない…。
いや、むしろ気持ちいい…。
我輩が死ぬとして、まず最初にこのような場所に立たされるのであろうか?
だとしたら、それも悪くはない。
仰げば、幽世の山頂は雲に覆われている。来た道を見せまいとする天の指図かもしれない。

しかし本当に、ここはこの世ではない。あの世でもない。
広い火山灰の荒野に一人…だが、一人ではない気配がした。
我輩の隣、我輩の遥か上。
感じる。


只管走った。
激しい筋肉痛に襲われながらも、バス停上の山小屋に到着。
井戸水を浴びるほど飲み、顔を洗い、火山灰をはらう。
最終バスに飛び乗り、御殿場口駅まで。
そうしたら、新宿直結のJR/小田急ロマンスカーがあり、切符を買う。
グリーン車しかなかったが、一人席だったので助かった。


多くの人たちの予想を大きく裏切り、我輩は富士山に登り、お鉢回りをし、無事に下山した。

感想は不思議とない。疲れたこと、空気の薄さ、筋肉痛の印象が強いままだ。

ただ、あの御殿場砂走りで、一人で下りながらも、複数の下りる砂音が聞こえていたのは、いまだに不思議に感じている。


ANDY 山本 |HomePage

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