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朝から仕事だと思っていた夫が、3時ぐらいに行けばいいんだと言い出したので、どこかでランチでもしようと出かけることにする。夫は数日前に都内の隠れ家的レストランスポットが載っている雑誌を買ってきていて、そこに大々的に特集されていた神楽坂に行きたいという。神楽坂はもともと花街でもあり、大小の出版社や編集プロダクションが集まるところでもあり、学生街でもあり、また日本のカルチェラタンといわれるほどにフランス人やフランス料理店が多い町でもある。飯田橋駅から神楽坂駅に抜ける神楽坂の通りは、パチンコ屋や薬局やちょっとレトロな日用雑貨店とか中華まんとか、生活に密着した俗っぽい通り。しかし一歩裏手に入ると迷路のように細い路地が入り組んでいて、その細い路地のいくつかは昔ながらの石畳で、料亭が立ち並ぶあたりは昔の日本風、ふと時空を超えてきたような敷居が高い雰囲気に満ちている。こうした路地裏には料亭や一軒家を改造した創作和食や甘味処がある一方で、数十メートルごとにフランス料理店やイタリア料理店が点在する。 雑誌に載ったせいなのか、お目当ての店は予約で一杯。歩きながらめぼしい店を探すことにして、ぶらぶらと路地から路地へ歩き回る。東京に越してきた頃にこの辺の物件を探したこともあるが、神楽坂の路地をこうして二人で歩くのは数年ぶり。知らないうちに新しいお店がどんどん出来ていたり、なんてことのない古くからの店が今風に表を改装したりしているのを「へー」とか「わー」とか言いながら見る。 ここならよさそうだと思ったお店も、例の雑誌に載っていたのだが、席はあいていたので入ることにする。ここもお店の人同士日本人のくせにフランス語で「しるぶぷれー」とか「めるしー」とか怒鳴りあっている。雑誌に出たからか値段が安いからか席はほとんど埋まっていて、エコノミーシートなみに詰まって食事が与えられるのを待つ。ちょっとブロイラーになった気分。しかも店全体がすすけているというか、なんとなくばっちい感じ。テーブルクロスがほつれていたり、しみだらけだったり、Tシャツから覗くウエイターの腕が毛むくじゃらだったり、オーダーする前にちょっと退散したくなる。隣のテーブルとの距離も相席かと思うほど近すぎるし。毛むくじゃらじゃないほうのウェイターが料理の説明をしたりオーダーを取りにくるのだが、「おーどぶる」、「ぽたーじゅ」、「でざーと」等々、これが標本として録音しておきたくなるほどの語尾平板化発音。オーダーを通すためにフランス語の言い回しを練習する前に、きれいな日本語を身につけたほうがいいよ。 それにしても東京ってこんなにたくさんのお店があってすごいよね、と二人で何度もした話をする。テーブルクロスや調度品は南仏風。お料理はまあまあ。私はクスクスにラタトイユを載せたものをオードブルに、ハチノスの煮込みをメインにする。ハチノスうまし。夫はオードブルが若鶏のパテとメインが豚足のカツレツ。グラスワインの赤を頼もうとして、口が滑って「グラスワインのあ…お…、あかをください」といってしまう。一瞬ウェイターがぎょっとしていたのは気のせいか。気のせいであって欲しい。まーなんてばつが悪い。一度おおまじめな顔をして「グラスワインの青をください」といってみようかな。デザートはそこそこ…かな。 なんとなく居心地の悪いまま食事を終えて、そそくさと出る。しかし、さーむいっ!関東の乾いた寒さといいましょうか、もう刺すような感じ。寒くて散策どころではないので、早々に帰る。帰りに百円ショップで板を組み合わせて棚を作るパーツを4袋買って帰り、棚の中に棚を作る。
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