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NEOさんのお宅では、その悪い状態に我慢しきれなくなったほうが掃除をしたり片付けものをしたりする、という夫婦間のルールがあるらしい。私は自分が不快に思わない程度にしか掃除をしないし、次の洗濯まで乾燥機の中身を放りっぱなしで、お風呂上りに乾燥機から下着を取り出してそのまま身に付けてしまうようなずぼらなオンナである。しかし我が家の場合、そのずぼらな私を補って余りあるほど夫の方が圧倒的に閾値が高いので、もしそんなルールにしたらほとんどの場合私がやることになってしまう、と思った。そもそもNEOさんは通勤途中におきたガス欠との恐怖に戦った話を書いていたのだが、これに関しては基本的に夫の方が臆病なのでガソリンは夫が入れるかもしれない。 ここだけの話だが、私は一度完璧にガソリンを使い切ってしまったことがある。北陸に住んでいたころの話である。当時は毎晩銭湯がわりに近くの町営温泉に行っていたのだが、近くといっても数キロはなれているので車で行く。長年のペーパードライバーから足を洗った私が運転していたのだが、ガソリンの補充などすっかり忘れていたのであった。ある晩いつものように温泉に行ってほかほかと家に帰る途中、山の上の家まで帰ろうと坂道をあがりかけると、あれよあれよというまに車のパワーがなくなってしまった。いくらアクセルを踏んでもすかすかすかと頼りなく坂を登らなくなった。「あれぇ?」と首をかしげる私の横で「ガソリンないよ」と助手席の夫。「ガソリン?何それ?」という状態でメータを見ると、確かにメーターの針は「E」のはるか下、目盛りのないところを指している。へぇ、Eってemptyってことなのね。坂の途中で一つおりこうさんになってしまった私。 とりあえずふもとにあるガソリンスタンドを目指すことにするが、温泉では回数券を使っているので、二人ともガソリンをいれようにもお財布を持っていない。お金がない、と困惑顔の夫に向かって「大丈夫!金ならある!」と豪語する妻。万一のときに備えてキーケースのポケットに千円札を忍ばせておいたのだ。おーほっほほ、大得意。しかしそれ以前にガソリンぐらい補充しとけよな、奥さん。という感じ。 幸い下り坂なのでニュートラルにしているだけで、どんどん車は前に進む。あまり快調に走るので、浪費を懸念した夫が「もう少しゆっくり走ったほうがいいんじゃない?」というが、これは単に惰性で走っているのだ。わはは。ガソリンスタンドは坂を折りきって信号を曲がったところにある。信号が赤でないことをひたすら祈りながらするーーーっと車を転がしていくと、幸運なことに信号は青。信号が赤でもどうせ人通りも車通りもほとんどないので大勢に影響はないのだが、気をよくしてそのままガソリンスタンドに滑り込み、元気よく「せんえんぶんいれてくださいっ!」と照れ隠しの大声を出す。 「あいよっ!せんえんぶん!」ガソリン千円分で窓も拭いてもらう。ガソリン千円分で「車内にごみ大丈夫ですか?」と言ってもらう。ガソリン千円分で「灰皿よかったですか〜」と気をつかってもらう。それにしてもこの「○○よかったですか〜」という言い方は奇異である。 千円分のガソリンを飲み込んで車は力強く走り出す。目盛りの「E」をちょこっとだけ上回った針がなんとも頼もしく感じられる夜であった。
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