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指の怪我はおかげさまで落ち着いております。 歩くとき腕を振っても痛くなくなってきたので、消防署に向かってひそかに手を振っています。 それはそうと、わたくしは昨日夫と山手線に乗っていたのでございます。某ターミナル駅につくと、人々がどやどやと降りていき、ひとつ席が空いたのでまず私が座ったのでございます。わたくしが座った席のその隣には、さきほどからせっせと携帯メールを打っている見目麗しい若いおなごさまがいらしたのでございますが、そのおなごさまの反対側の隣が空きましたので、夫はそこに座ろうとしたのでございます。すると丁度メール打ちのきりが良かったのか、そのおなごさまは「あ、どうぞどうぞ」と席をずれてくださったのでございます。 ほどなくしておじゃる丸に出てくるマリーさんのようなおばばさまが杖を片手に乗り込んでいらしたのでございます。例によって私が譲るにはちょと遠い場所だったのですが、おばばさまが中ほどに進んでくると、その携帯メールの若いおなごさまは席を譲ろうと席を立ったのでございます。おばばさまはそのおなごさまからもちょっと遠い位置におられましたので、おなごさまが声をかけようとちょっと席から晴れた隙に、なんとおなごさまの後ろをすりぬけて若いむすめっこがするりとその空いた席に座ってしまったのでございます。電車が駅を出発してから席が空いた不自然さに、なんの疑問もかんじなかったのでございましょう。 あまりの出来事に周囲のものはみなあっけにとられて、その若いむすめっこをまじまじとみつめたのでございますが、そのむすめっこは気付くそぶりもなくイヤホンをしたままややうつむいて一点を見つめているのでございます。そう、まるで魂が抜けてしまったような、人としての気配が伝わってこない様子でございました。おばばさまと席をゆずったおなごさまと二人とも困惑しきってその場に立っていたのでございます。おばばさまはせっかく譲ってもらったのにごめんなさいね、とおなごさまに謝っておいででした。すると、今しがた席にすわったふとったおっさんさまが「座られちゃったのか、まあしょうがねえよな、はっはっは」などと周囲の感情を逆なでするような調子でいいはなちました。「だったら、おっさんアンタが譲れよな」と、わたくしは自分は席に座ったまま心の中でツッコミをいれたのでございます。 幸いそのおっさんさまの横のやや年季の入ったおなごさまが、おばばさまに席をおゆずりになりましたので、この件は一件落着、若いおなごさまは次の駅でさっそうと降りてゆかれました。隣同士座ることになったおばばさまとおっさんさまは、なぜか言葉を交わす間柄に発展していて、かなり大きな声でその魂の抜けたような娘っこのことをあれやこれや言っていたのですが、娘っこはまったく気付くそぶりもなく、ただただイヤホンで隔離された自分の世界にこもり、まさに我関せずでございました。ときおり自分の手を固く握り締めたり爪をきゅーーーっと指に立てたりするようすがそれは恐ろしゅうございました。もしかしたら宇宙人かもしれないと怪しく思い始めたころ、その娘っこはするりと席を立って電車を降りていきました。席をのっとってからたった4駅目のことでございました。
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