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学問の秋である。味覚の秋ともいうが、残念ながらあまり食指の動くものがここにはない。 長い夏休みが終わって、9月から新学期(Michaelmas Term)である。夏の間街を闊歩していた観光客や各地からの語学研修生は姿を消し、大学の新入生達が大きな荷物を持って次々とやってくる。 街には「Back to School」というキャッチフレーズと共に、学用品や図書が売られている。 ケンブリッジはまことに学ぶには便利なところで、地元のコミュニティカレッジ(Community College)を始め、様々な団体が主催する教室があり、訪問研究員やその家族のためにも語学教室などがある。いずれも格安なのだが、私がここに来たころはちょうど春の学期(Easter Term)の中盤で、行事や教室はほとんど終わっていて残念な思いをしていたのだ。 それなら夏の間は語学学校に通って英語力をつけて、今度の新学期からは現地の人に混じってここでの生活を楽しもうと決めていた。英語の進捗状況は予定より大幅に遅れているが、何を勉強するかは夏の間から虎視耽々と狙っていたので準備は万全である。 9月に入ると訪問研究員用の催し物が始まる。週一回大学会館で「訪問研究員の妻あるいはパートナーおよび家族のためのコーヒーモーニング」というのがあるので、できるだけこれに参加することにする。これはタダ。それから週一回の訪問研究員用の会話教室に通うことにする。 それから英語手話(British Sign Language)。ここ数年ずっと日本の手話を勉強していたので、この機会に是非英国の手話を勉強してみたいと思っていた。ここに来た当初から探していたのだが、7月ぐらいにやっと見つけてすぐ申し込んであったのだ。これはケンブリッジの聴覚障害者団体と「働く人のための教育機関」のようなものが協賛していて、大学内の古い音楽室でやるらしい。 それからコミュニティカレッジである。ケンブリッジには5つのコミュニティカレッジがあるが、その中で一番近いのは自転車で5分とかからない距離にある。ここでフランス語とヨガをとることにする。 ヨガは人気が高い。ヨガや瞑想、アロマテラピーはこちらではポピュラーなストレス解消法である。夏の間に別のコミュニティカレッジでヨガのサマーコースを取ったのだが、これがなかなか乙なものだった。当然説明は英語なので、はじめは聞き取りに精一杯で全然リラックスできなかったのだが、それも慣れてくればなんとなく分かるようになってきた。もう少しやってみたい。 フランス語に関しては英語の上達も捗々しくないので気分転換にフランス語でもとってみるか、というところである。大学の第二外国語はドイツ語だったので、フランス語は初めてである。社会人になってから一度「公文式フランス語」というのをやったことがあるが、数週間で挫折。しかし、なんとなくあの響きは憧れである。例のデルフィンとお互いにフランス語と日本語を教えあったりしたし、フランスに遊びにおいで、といってくれたので今回は大丈夫かもしれない。 というわけで9月のある日、コミュニティカレッジに申し込みに行った。その日は申し込みの初日なのだが、事務所に行くと早くも人が並んでいる。電話で申し込む人もいるようだ。うらやましい。私の場合何かと行き違いがあるのでてくてく出かけて行くしかない。受付の人は申し込み一人一人に丁寧に対応しているので時間がかかる。ケンブリッジに限ったことなのかもしれないが、イギリスの人たちは本当にやる気を起こさせるのがうまい気がする。申し込みを心から喜んでいるように見えるのである。 たとえば「ええと、フランス語に申し込みたいのですが…」というと、「フランス語!それはすばらしい!もちろん大丈夫ですとも!」といった答えが返ってくる。これが料理教室だろうと、体操教室だろうと、同じである。もし定員一杯だったりすれば本当に残念そうな返答をするのである。 訪問研究員用の会話教室の申し込みも同様で、にこやかに手続きをしてくれた上に「とてもよく訓練をつんだ先生が教えてくれるから、きっととてもためになると思うわ」と言い添えてくれる。 申し込んだだけで気持ちが明るくなってくる。前途洋々である。 学問の秋なのである。文化とゲージツの秋なのである。スポーツの秋である。 しかしこれに前からやっている週一回の「病院のピアノ弾き」と、英語と日本語の教えあいっこ(Conversation Exchange)を足すとなんだか忙しいのである。カルチャースクールやお稽古事で忙しい奥様のようである。ってまったくその通りなのだが。
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