WELLA
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1997年12月03日(水) 第29話 パタンのカフェにて

これからの予定を聞くと、もう観光する場所はない、というのでお茶をご馳走することにした。
「あなたはお茶を飲みたいのか?」と確認してくるので、「うん、まあ、ちょっと歩いて疲れたし」と、とっさに口から出る。本当はそんなに疲れているわけではないけれど、すぐお茶をしたがる軟弱な日本人と思われている気がして、もっともらしくそんなことを言ってしまう。

お茶を飲むならあそこだ、と連れて行かれた店は5階建てのビルの屋上にある。エレベータはない。「あなたはつかれているから」とサリーの入った袋を持ってくれた。そんなに重いものではないが、ちょっと心の奥がじわっとする。彼らはさっさと登っていくが、こちらはさすがに息がきれた。
思わず「ねぇ、私つかれてるっていわなかったけぇ?」と軽快な足音に向かって叫ぶ。

やっとの思いで最上階まで登る。心が晴れるような 風景 が広がる。
パタンの街が一望できる。王宮前の広場に集まる人々の姿や、道を行きかう人々、寺の中庭がみてとれる。視線をもう少し上にずらすと遠くに望むヒマラヤの山々の白い尾根は素晴らしく、すっかり苦労を忘れる。
歓声を上げて景色に見いっていると、上から声が降ってくる。なんとさらに屋上部分にも登れるのだ。先客が登って来い、と手招きをする。せっかくここまで来たので、ウェイターにそう言って席を移る。ほとんど非常はしごのような階段を上がっていくと、さらに風景が広がる。まさに360°の展望である。

そこに居合わせたのは、現地人の3人連れと、一人旅のアメリカ人。アメリカ人は、まさにアメリカ人。陽気で人なつっこい。
「写真を撮ってくれ」と頼まれカメラを向けると、空のティーカップを手に気取ったポーズをとるわ、深刻そうな表情で宙空を見つめるわ、一同大笑いである。こりゃぁ、一人でも退屈しないだろう、という感じ。
彼は、うちの小坊たちに陽気にも話しかけてくる。
「ぼうず、どっから来た?」小坊たちも負けてはいない。
「パタンからだ」…‥…確かに間違いではない。
「あんたはどこから来たんだ?」
「おれはアメリカから来た」
「アメリカ?はん、小さな国から来たんだな」
「おお、いかにも小さい国だ」

その後はマイケル・ジョーダンを知ってるか、などと他愛のない話をしている。やっぱり子どもだ。

アメリカ人は突然、時間だというように立上り、周囲の人々に挨拶をして去っていった。私たちは引続きお茶を飲みながら今晩のフライトの話やカトマンズの話などをする。ふと気づくと屋上のカフェからは空港が見え、飛行機が離着陸するところが見てとれる。
なんとせまい、なんと平らなところなのだ。

お茶も飲み終り、肌寒くなってきたので帰ることにした。タクシーで帰るというと、彼らは手際よくタクシーと交渉し、メータ制のタクシー(ネパールでは珍しい)の料金の支払い方まで教えてくれる。実にゆき届いた小坊たちである。
写真を送ると約束し合ってタクシーに乗り込んだ。ちょっぴり感傷的になった。


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