TVでテニスの試合を見た。 準決勝でヒンギスとセリーナ・ウイリアムズは激突した。
セリーナ・ウイリアムズのパワーの前にヒンギスはたじたじ。 ヒンギスはファーストサーブをネットに引っ掛けて失敗が続く。
ボールボーイはそのたびに縦横無尽にコートを駈けた。 速かった。 速すぎてビックリした。 忍者と思うくらいだった。
私は彼の虜になった。 彼しか見えていなかった。
ヒンギスとセリーナ・ウイリアムズが打ったボールは私の右耳から入り左耳から出ていった。 それとも左耳から入り右耳から出ていった。 そのどちらかだった。 それが繰り返されていった。
ただ1人ボールボーイだけが私の頭の中を駆け巡っていた。
試合はセリーナ・ウイリアムズのワンサイドゲーム色を呈してきた。 それと同時に私が虜になったボールボーイはあろうことか勢いというものが霞んできた。 試合のはじめの頃よりダッシュが幾分鈍いのである。
彼は疲れていたのかもしれない。 しかし、そんなことに関係無く私はがっかりした。
私はそれから暫く試合を眺めたあとTVを消した。 もうボールボーイですらも私の両耳間を出たり入ったりしていることに、私は気づいたからだ。
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