私がコンビニでバイトをしているのは誰しもが解っていることなのでもう敢えて言わない。
早朝の客で一番多いのは会社に向かう男性サラリーマンで、 その他の学生やOLや主婦はトントンである。
トントンというのは、数がだいたい同じだという事であって、 靴がなかなか履けないからつま先を地面に打ちつけている訳ではない。 むろん、トイレにかけ込んだらカギのところが赤になっているにもかかわらず、 戸を叩く音でもない。
でも奥に開いていると思って開けたら、掃除ボックスだったりするほど焦ってはイケナイけど、 カギのところが青になってると思って飛びついて開けたらすでに伊藤のおっさんが入っていて、 彼のただのカギのかけ忘れであってカギをかけてない伊藤のおっさんがイケナイのに、
「なっ、何ですか!」
と言ってキッと睨まれた時には、もう次からトイレの扉なんて開けられなくなってしまうよ。
そんなわけでこの世にはトントンというのが多くあるが、僕の好むトントンはこれだ。
ピリリリリリリ、ピリリリリリリ おっと、時間だ。起きねばならぬ。仕事仕事だ。
クンクン、クンクン。 もう既になにやら味噌汁の良い香り。
タンタン、タンタン。 寝室を出て、階段を降りる。
トントン、トントン。 朝の光を浴びて彼女が人参を刻む。
これが僕の好むトントン。
でも仕事のあとにはうしろから肩のトントンも良いものだ。
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