TVでタレントが美味しそうに食べていると、自分も食べたくなるように、 僕は小説を読んでいると書きたくなる。
それは小説中の話をイメージすると同時に、 筆者が書いている状況をイメージしているからだろう。 というわけで小説を書く。ただし短編。まじまじ短短編。
リクルートの人事の人に呼ばれて梅田に行くことになり電車に乗る。 いつもと変わらない風景が僕の前を過ぎていく。 大阪駅に着くまで少しあるから本でも読もうかなと思う。 今読んでいるのは原田宗則の「優しくって少しばか」である。
吹田に着く。少しばかり人が乗ってくる。
長い髪を、穏やかな波のようになびかせながら、 短いタイトスカートの紺のスーツと高いヒールを身に着けた綺麗な女性が、 僕の向かい側の席に座る。
座るやいなや携帯に夢中になっている。彼氏にメールでも打っているのだろうか。 それとも会社に遅れた理由を同期に打っているのだろか。 それは絶対にわからないが、夢中になっているから結構気になる。
そんな携帯に夢中になっていると彼女はタイトスカートだからパンツが見えている。 見えていいのか。見てもよいのか。それはわからないが、とりあえず本を取り出す。
俺の隣に座った40歳ばかりのおやじサラリーマンにも見えているのだろうか。 そんな事を考えていたら、全然小説の内容が頭に入らない。 気になって頭を上げる。 彼女も同時にあたまを上げる。
目が合う。 彼女は目を逸らす。 俺も後で目を逸らす。
そんな事で大阪に着く。彼女は立った。彼女も降りるようだ。 俺もすぐに立ち、さっとそばによって言う。
「すみませんが、パンツ見えてましたよ」
ひるまず彼女はすぐに返す。
「あなたのチャック開いてますよ」
マジで!と思いつつ、カバンでふさがった左手とは別の右手を股間に伸ばす。 確かに正解。やるじゃない。 なにくわぬ顔でチャックを閉める。そして同時にこの話も閉める。
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